AIZUマウントエクスプレスに乗って

「会津鉄道の絶景車窓を辿る (北千住~鬼怒川温泉~会津若松)」

[2015/4/27]


東京都内から私鉄と三セクで行ける最奥地が「会津若松」だ。
地図を見ると、東京から会津若松へ行く鉄道ルートは主に二通りあることがわかる。

一般的なのは新幹線と在来線(東北本線と磐越西線)を経由する”表ルート”で、
会津へ向かう主要経路になっているのだが、この表ルートに対し、
一般客にあまり知られてないのが私鉄と三セクを経由する”裏ルート”だ。
今回は私鉄+三セクの裏ルートを経由して、東京から会津若松へ向かおうと思う。


計画~導入


東日本の大手私鉄、東武鉄道から今回の旅は始まる。
まず北千住から快速列車「会津田島行き」に乗って北上し、鬼怒川温泉で下車。
そして鬼怒川温泉で会津鉄道の「AIZUマウントエクスプレス」に乗って、一気に会津若松を目指す!

言ってしまえば二本の列車を乗り継ぐだけなので、行程そのものは単純だが、
今回行く裏ルートの真価は経由する会社線の多様さにある。

「東武鉄道→(新藤原)→野岩鉄道→(会津高原尾瀬口)→会津鉄道→(西若松)→JR東日本」


こんな感じで、計4社を跨いで進んでいくことになる。厳密に私鉄と三セクに絞るなら西若松までだが、
会津鉄道の列車は全列車が会津若松まで直通していて、同線の実質的終点になっている。
東日本最長の私鉄+三セクルートを、今回は絶景車窓多めに辿っていこう。


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朝7時、通勤ラッシュの北千住にやってきた私は、券売機の窓口で4社連絡の全線切符を発行してもらおうとしたが、どうもそこの窓口では取り扱ってない??らしく、とりあえず3社連絡の切符を購入した。

要は下車駅で精算してもらえばいいから問題はないが、何故発行できなかったんだろうか??
公式HPにはっきり「北千住で4社連絡の切符を取り扱ってる」って記載があったのに。
窓口の係員も4社連絡切符の存在すら知らなかったし………まーいいか。

朝の北千住はカオスそのものだ。人混みに流されながら、私は東武の1番線へ向かった。
アナウンスが流れると、7時21分発の快速列車がやってくる。
会津若松まで約230kmの道のりが、今、幕を開ける!


東武鉄道 (会津田島行き) [北千住~鬼怒川温泉]

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東武の裏自慢といえる、日光・会津直通の快速列車。浅草始発のこの列車は行き先が三つに分かれているのだが、
中でも前側の「会津田島行き」は、東日本私鉄の中で最長距離列車(特急を除く)として知られる。
発車10分前にホームに降り立つと大行列が出来ており、列車が到着すると席取り合戦が始まった。

この列車の混雑体験については“前例”があるので、大人しく特急で行こうと思ったが、
もう乗ってしまったんだから仕方あるまい。こいつで鬼怒川温泉まで行っちまおう!

列車は北千住を出ると春日部までノンストップで疾走し、そこから先も特急並みに少ない停車駅で進んでいく。
北千住~春日部間は距離にして28km!抜かす駅なんと17駅!パネェよ、東武の快速はパネェよ。
名ばかりの快速が横行する中で「THE 快速」の称号が似合う豪快な列車だ。


「東武快速怒涛のノンストップ区間(北千住~春日部)」


武蔵野線と接続する新越谷も抜かしてしまう”心意気”!


こんな列車を無料で走らせる東武は偉い!ネーミングセンスは最悪だけど。
野田線にアーバンパークラインなんて愛称つけたのは、さすがにナイと思った。地元民として。

春日部に着くと通勤客が吐き出され、行楽列車のような雰囲気になってきた。
ここから駅間距離が短くなるが、今までが快速として異常に長すぎたのだ。
それほど北千住〜春日部ノンストップのインパクトはデカイ。


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乗客は、普通の観光客やザックを背負った登山客など多種多様。
この列車は座席にミニテーブルがついてるのも一つの売りになっている。
私の向かい側には受験生がいて、ミニテーブルに単語帳を置いて必死に書き殴っている。
なるほどそういう活用法もあったのかと感心。

何やらかんやらしてるうちに車窓は田畑が目立ち始め、古臭い人家が多くなってきた。
利根川を渡ると栃木の地へ入る。栃木は東武の包囲網でもお得意処。
この辺りから、豪快に突っ走ってた列車のスピードが落ちた。


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板倉東洋大前を過ぎ平野を快走しているうちに、栃木の山々が見え始めた。
左手に野山が間近に迫ってくる。沿線は田畑と古い民家ばかりだ。
完全に田舎景色で、新鹿沼でさらに乗客が減った。

終点の会津田島まで行けばガラガラになってしまうのだろうか。


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新鹿沼を境にして、列車は人家の少ない山の中へ入っていく。
左手の山々はより険しくなり、平野を脱したことがわかる。

運行拠点の下今市が近づくと、前方に奥日光の山が見えてきた。


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下今市で列車を切り離すため、長時間停車。
後側2両は日光へ向かうが、前側4両は鬼怒川線に入りさらに北上する。
会津田島行きは既にガラガラだ。約10分停車後、下今市を発車。ここからは純粋な鈍行となる。

鬼怒川線に入ると列車の速度が下がり、ノロノロ走りながら各駅に停車していく。
日光を過ぎても先にあるのは延々と連なる山々で、内陸の奥地まで来たんだと実感。


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大桑から列車は川の合流地を渡り、一級河川の鬼怒川と合流した。
これが本当に東武なのかって思わざるを得ない、風光明媚な車窓が展開。
鬼怒川合流後は山岳路線の様相を帯びてくる。

渓谷が左手に見えてくれば鬼怒川温泉まであと少しである。


鬼怒川温泉駅

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9時31分、会津田島行きは鬼怒川温泉に到着した。
AIZUマウントエクスプレスに始発から乗りたいため、やむなくここで下車する。

久しぶりに来た鬼怒川温泉。10年前の家族旅行以来だと思う。
鬼怒川渓流と戯れて、帰りに日帰り入浴で鬼怒川温泉に立ち寄るというのが、
夏の家族旅行の定番プランになっていた。どっちにしろ、鉄道で来たのは初めてだ。


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自販機に萌えキャラが……東武もついに萌え路線に走ったか!
鉄道むすめ。トミーテックが展開している鉄道萌えキャラシリーズだ。


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自販機に写る彼女は「鬼怒川みやび」といい、詳細なプロフィール設定もあるようだ。
設定上では「東武の特急乗務車掌」ということになっている。ヘーソウナンデスカー(汗)
(彼女の公式紹介HPはこちら


今回の旅の主役となる”超豪華快速列車”は、既にホームに停まっていた。


AIZUマウントエクスプレス1号 [鬼怒川温泉~会津若松]

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AIZUマウントエクスプレスは会津鉄道が運行している名物列車で、現在一日三本走っている。
一部列車は東武日光や喜多方を始発終着としているが、この列車の基本的な運行区間は「鬼怒川温泉~会津若松」。
鬼怒川温泉から計4社の路線(東武鉄道・野岩鉄道・会津鉄道・JR東日本)を経由し、終点の会津若松へ向かう。

車両は二両編成の気動車で、全席自由席となっている。
赤い新型車はAT-700・750形、年季の入った白いやつはAT-600・650形という型番が付いている。
AIZUマウントエクスプレスは赤い気動車で運行しているイメージがあったが、白い気動車の混成で運行する場合もあるらしい。これは意外。

一見平凡な気動車に見えるし、外見だけでこの列車の本気度は伺えない。
ということでさっそく中へ入ってみる。


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盛りっぷりが半端ない。


……一応言っておくと、AIZUマウントエクスプレスは普通運賃のみで乗れる「快速列車」だ。
シックな木目調インテリアにテーブル付きのリクライニングシートがズラッと並んでいて、
電球色の照明、トイレ、Wi-Fiを装備している。よく見ると通路に絨毯まで敷いてるw
他地域では追加料金を取られてもおかしくないゴージャスな列車である。

何故ここまで”盛った”のかというと、東武特急でやって来る観光客の期待値を保持するためだという。
東武特急といえばスペーシアだ。
スペーシアは並外れて豪華(=バブリー)な内装を誇っていて、生半可な装備では乗客をがっかりさせてしまう。
そこでスペーシアに負けないために、会津鉄道もやれる限り豪華な設備を施したって寸法だ。


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上はAT-700・750形の車内だが、こちらは「尾瀬エクスプレス」として使われていたAT-600・650形の車内。
設備の華々しさは少し劣るが、それでも快速としては立派過ぎる面構えである。


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座席に付属している観光パンフレットを適当に見ながら時間をつぶしていると、
やがて定刻がきて、AIZUマウントエクスプレス1号は出発した。

今回私は左手の座席に陣取ったので、その呈で以下の車窓レポを読まれたい。


野岩鉄道区間 [新藤原~会津高原尾瀬口]

「秘境地帯を走る野岩鉄道区間(新藤原~会津高原尾瀬口)」


列車は鬼怒川温泉を出ると渓谷を抜け、新藤原へ。ここからしばらくは野岩鉄道の区間だ。
地形図を見る限りでは、線路を敷けるような土地が野岩鉄道の区間には一切無い。
深い山中を長大トンネルで何度もぶち抜いている。


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新藤原からいくつかトンネルを抜けた先に待ち構えていたのが、こんな車窓。
ほんの僅かな人家と鬼怒川と一本の国道ぐらいしか見えない。
野岩鉄道は屈指の秘境路線だったのだ。

川路温泉で、列車は行き違いのため数分停車。
この区間は絶景のオンパレードなので、見逃さないようにしたいところ。


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長大トンネルでダムと湖に挟まれたところを抜けると、トンネル中に設けられた駅へ停車。湯西川温泉だ。
ここを発車してすぐのところで絶景が広がる。ダム湖の真ん中を鉄橋でぶち抜いて進んでいく。
橋の名は湯西川橋梁といい、全長240mある。野岩鉄道のハイライト区間といえる。

湯西川温泉以北で絶景は途切れ、短いトンネルを何度も突き抜けて進む。
こじんまりとした集落へ入ると上三依塩原温泉口へ。
男鹿高原先で列車は長大トンネルへ突入し、険しい県境を抜けて福島へ向かう。


会津鉄道区間 [会津高原尾瀬口~西若松]

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県境を抜けると会津高原尾瀬口へ到着。ここから列車は会津鉄道の区間へ入る。
路線が変わるのに停車時間は僅か20秒。笑っちゃうほどスムーズだった。

「ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン」


会津高原尾瀬口を出てしばらくすると線路の音が異常に短く響いて、耳が軽くゲシュタルト崩壊した。
線路敷設の知識は詳しくないが、こんな短いジョイント音を聞いたのは初めてだ。


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「ここは一体何処なんだ?」と言いたくなるような、ときが止まったような高原の景色が続く。
左手には七ヶ岳が見える。その名の通り、稜線に7つの峰が連なっている。
山上にまだ春は来てないようで、雪がチラチラと残っていた。


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人家が多くなってくると、列車は電化区間の末端である会津田島へ到着。
観光客がドッと乗り込んできて、車内は賑やかになった。

会津田島駅には、もう一つの名物列車「お座トロ展望列車」が停まっていた。
3両編成で、一世代前の主力車と中古の国鉄車(キハ40)にトロッコが連結されている。
まさにごった煮を地で行く列車だ。
4社線経由のリクライニングシート付き定期快速も相当なもんだと思うけど(笑)


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会津田島から先、会津鉄道は非電化区間に入る。
何時の間にか専属の女性案内係が乗車していて、観光風味が高まってきた。
加藤谷川を渡って高台の上をソロソロ進む。


「会津鉄道の絶景区間(会津下郷~芦ノ牧温泉)」


会津下郷を過ぎると、列車は会津の渓谷地帯へ入っていく。
塔のへつりを出ると、会津鉄道の車窓はグッと化けた。


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塔のへつりを出てすぐのところで拝めるのが、第五大川橋梁の絶景だ。
列車は徐行したり一時停止するかと思ったが、閑散とした平日だからなのか、
そういった観光サービスはやらず、淡々と通り抜けた。


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渓谷は深みを増し、湯野上温泉を過ぎたところで列車は長いトンネルに入る。
トンネルは山の縁を辿るように続いており、ダム湖となった阿賀川の脇を辿っている。
この区間、ダム湖が出来る前は谷底に線路が敷かれていたという。


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長いトンネルを抜けてすぐの深沢橋梁で待っていたのは、絵に描いたような絶景だった。
土日だと橋の上で一時停止するのだろうが、今日は速度を落とさず僅か2秒で通過。
ダム湖の湖底には、谷底を辿っていた会津線の「旧線」が眠っている。

SLが走っていた国鉄時代は、奥深い渓谷景色が広がっていたんだろう。


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深沢橋梁の絶景を過ぎると、列車は大河のような阿賀川とともに北上する。
渓谷は既に途絶えていて、周りの山が低くなってくると平板な盆地へ入っていく。

人家が多くなり只見線と合流すると西若松へ到着。
西若松からはJR東日本(只見線)の区間だ。
会津鉄道の終点でもあるが、列車自体は会津若松まで走り抜く。


会津若松駅

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会津若松、到達!


12時02分、列車は終点の会津若松へ到着した。
ゴージャスなAIZUマウントエクスプレスの旅もこれにて終了。
通常運賃だけで乗れるものとは思えない豪華な列車だった!

会津若松は磐越西線・只見線・会津鉄道が乗り入れる鉄道要衝だ。
特に磐越西線は鉄道資産が充実した路線で、休日になるとSLや国鉄の特急車が走っている。


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平日となる今日、ホームの留置線には国鉄の特急車が停まっていた。
今や希少種と化した国鉄特急色。鉄道が走ることそのものに意味があった時代を象徴するカラーだ。
東日本最長の私鉄+三セクルートを突破し、終着で国鉄特急車を見れるというのもなかなか乙なもんである。

国鉄特急色は滅多に見かけなくなってしまったので、あらゆる角度から撮りまくった。変態だぁああああ。


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「 精 算 書 」


改札の窓口で精算された3社連絡切符は、紙っきれの「精算書」となって手元に残った。
いくらなんでもこれは味気なさ過ぎるかもしれない(笑)
思い出の品にするにはちょっと役不足だ。


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昼下がりの会津若松は観光客で賑わっている。駅前で昼飯を済ました後、
私は帰路ついでに水郡線の乗り鉄をするべく、磐越西線で郡山へ向かったのだった。

・旅の総費用:通常運賃4490円(東武鉄道+野岩鉄道+会津鉄道+JR東日本)
・乗った列車の数:2本(会津田島行き+AIZUマウントエクスプレス)
・全区間の総距離/所要時間:約230km/約4時間40分


三セクとは思えない絶景車窓が、会津の”裏ルート”には沢山あった!
鬼怒川渓谷、野岩鉄道の秘境地帯、ダム湖、七ヶ岳、阿賀川渓谷の絶景。
無味乾燥な東北本線ではなく会津鉄道で会津を目指す。それもまた乙な選択かもしれない。
皆さんも会津鉄道の超豪華快速に乗って、会津の絶景車窓を愉しんでみては如何だろうか。

(完結)

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