「水上散策 3/3 (土合~湯檜曽)」
[2013/5/6]
上越線は、水上以北はしばらく山の中を突き進むため過疎区間になっている。
そのため水上から越後中里までの区間は、一日僅か5~6本しか列車が来ないのだ。
土合駅は水上から2つ隣の駅だが、途中下車するにはかなり不便である。
土合駅
一ノ倉沢から山道を急いで駆け降りること数分、再び土合駅前にやって来た。
駅舎は三角屋根のこじんまりとした佇まいだ。
入口に「日本一のモグラえき」と掲げられている。
この駅は、上りと下りのホームが恐ろしいほどに離れている。
上りホームは地上だが、ここから地下深くの下りホームへ行くには500段近い階段を降りなければならない。
高低差は80m、ホームに行くだけで片道10分かかる。
各ホームへの分岐から狭い通路を進んでいく。
しばらく進むと、シェルター状の通路は国道の上を跨ぎ、山の腹に突き刺さる形でトンネル内へと続く。
途中で、列車のトンネル侵入による突風を防ぐための風除けが設けられていた。
トンネル入口にたどり着く。地底まで462段の階段が行く手を阻んでいる。
こうして実際に覗いて見ると、本当に地の底まで続いてるのではないかと思うほどだ。
これは、、、想像以上にヤバイ。簡単には戻って来れないだろう。
降りるのは諦めてすぐ水上へ戻ろうかとも思ったが、ここまで来たからにはもう行くしかない。
ほんの数秒で体を軽くほぐしてから、意気揚々と地底に向けて突入した。
階段を快調に降りていく。
将来エスカレーターを設置する予定だったらしく、階段脇にはそのスペースが残っている。
さっきのクライマーの方が言っていた通り、それほど昔は賑やかな場所だったのだろう。
半分ぐらい降りたところで早くも足が笑い始めた。
ちょうど中間地点のところにはベンチが設けられているのだが、こんな辺ぴかつ薄暗いところで一人座って休む気にはとてもなれない。
息を荒立たせながらも、何とかそれなりのペースを保ったまま降りていく。
やがて、5分足らずで下りホームに到着した。
下りホームは、長大な新清水トンネルの中に位置している。
数年前まで待避線があったが廃止され、その待避線の上に新しいホームが設けられている。
旧ホームは立ち入り禁止となっているが、ホーム自体はそのまま残っている。
上越新幹線が開業する以前は、長大編成の列車がひっきりなしに行き交っていたのだという。
ホーム端には小さな待合室とトイレがあった。
事務室もあるが、さすがに誰もいない。
一通り観察した後、再び階段を登る。
地上の出口は、遥か彼方にあった。
階段を登り始めると、早々に足が悲鳴を上げる。しかし、出口はまだまだ先だ。
誰もいないので、格好など気にしないで済むのがよかった。
少しずつ、出口が近づいてきた。
あと、もう少し!
462段の階段を登りきり、無事地上へ到達した。
ところどころにある気の利いた案内に励まされ、先を急ぐ。
ドアの向こうに映っているのは自分と同世代だと思われるカップルで、ゾンビのように足を引きずっている自分を変な目で見た。
まあ、彼らも数分後にはこうして地獄を見るのだろう。
想像以上にすごいところだった!
次は湯檜曽駅へ向かう。まだ、帰りのSLの出発時刻にかろうじて間に合う余地はあった。
湯檜曽駅
土合駅から再び山道を駆け下り、隣の湯檜曽駅へ到着。
もう時間がないので、トンネル内にある下りホームだけ見て立ち去ることに。
ホームの入口に入ると、冷たく張り詰めた空気が流れ込んできた。
土合駅とは違って階段はない。ほぼ高低差のないままホームへたどり着く。
湯檜曽駅の下りホームは、トンネルの入口付近に位置している。
無人駅で人っ子一人いない。
地下水が流れる音と自分の足音だけが、無機質な空間いっぱいに響き渡る。
ろくに観察もせず、一通り写真を撮っただけで駅を出た。
SLが出発するまで残された時間はほんの僅かだったが、潔く諦めることもできず急いで山道を降りていった。
土合駅も湯檜曽駅も、凄まじい異空間ぶりを放っていた。
人気のなさはともかく、ホームが剥き出しのトンネル内にあるので圧迫感が半端ではない。
また、ホームの異様な長さは当時の賑わいぶりを偲ばせるものだった。