魔の山の大岩壁、一ノ倉沢へ

「水上散策 2/3 (水上~一ノ倉沢)」

[2013/5/6]


SLみなかみ号の終着駅である水上駅は、群馬と新潟の県境に聳える三国山脈の手前に位置している。
ここ水上駅から、谷川岳の一ノ倉沢の岩壁を見に行くにはいくつか方法があるようだ。
そもそも車以外で行くような場所ではなさそうだが、強行で行ってやろうと思う。


水上駅前


水上駅から谷川岳の一ノ倉沢まで、公共交通&徒歩で到達する手段は主に3つある。

①上越線の普通列車に乗って2つ隣の土合駅で降り、そこから国道を約4km歩く。
②一時間ごとに出ている路線バスに乗って谷川岳ロープウェイ駅まで行き、そこから国道を約3km歩く。
③専ら徒歩で、水上駅から国道をトータル約12km踏破する。


正直言って③は現実的ではない。(徒歩で往復24kmとか正気の沙汰じゃない)
①や②だと帰りのSLに間に合わなくなる。
万策尽きたと思ったが、ふとした思いつきでレンタサイクルはどうかなと考えた。
自転車なら普通に行けそうな距離だ。


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調べてみると、水上駅周辺に無料でレンタサイクルを貸し出ししている所が数ヶ所あるらしい。
ということで早速レンタサイクルを借りに行く。
しかし、3時間で戻って来られるかちょっと不安だ。

片道約12kmなので、普通のペースで行けば片道50分ぐらいで行けるだろうか。


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駅から数分でレンタルの店に着くと、ギアのないシティサイクルがずらっと並べてあった。
他に何かないか探してみると、端の方に良い感じのスポーツサイクルが一台だけ置いてある。
これなら間違いない!と思い、すぐにそのスポーツサイクルを借りて出発した。


国道291号線 [水上駅~一ノ倉沢]

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水上駅前から国道291号線に出る。
あとはこの二車線の国道を突き当たりまでひたすら進んでいくだけだ。
早速道はすぐ上り坂になる。急ぐと無駄に力が入るので、あくまでも冷静にペダルを漕いでいく。


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水上駅前を出て15分後に、隣駅の湯檜曽駅前を通過する。
そして湯檜曽駅を少し北へ行ったところに、上越線上り線の鉄橋がある。
この先はループ線になっていて、湯檜曽駅の上りホームからは列車がループを降りてくる様子を見ることができる。


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さらにそこからもう少し進んだところには、旧湯檜曽駅の入口がある。
上越線がまだ単線だった頃に使われていた駅で、複線化の際に現在の場所へ移転したらしい。
探索してみたいが、どうも中は廃墟同然となっているらしいので今回はスルーすることに。


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旧湯檜曽駅入口近くにはバス停があった。
年季の入ったコンクリート造りの待合室がいい味出してる。


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温泉街を通り過ぎ、湯檜曽川のすぐそばに沿って北上する。


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山道が少しずつ険しくなってきた。


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しばらくするとスノーシェルターがあり、くぐり抜けるとすぐに谷川岳ドライブインと土合駅が見えてくる。
体力温存も兼ねて、駅構内は帰り際に探索することに。


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土合駅前を通過すると、国道は大きく右へカーブし上越線の線路を跨ぐ。


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線路はすぐ土合駅の先で清水トンネルに入る。
大正11年に着工し昭和6年に開通したこのトンネルは、当時日本最長であったという。
川端康成の小説「雪国」の冒頭で、このトンネルを抜けたときの情景が描かれている。


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土合駅を過ぎると、道は一際険しくなる。
急坂を上っていくと、すぐさま眼下に土合駅全景が見渡せる。
駅周りは何もなく、人里離れた山の中にあることがわかる。


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ロープウェイ駅近くまで、ヘアピンカーブと急勾配が連続している。
ヘトヘトになってきたが、無心でひたすらペダルを漕いでいく。


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水上駅から国道を辿ること約8kmで、谷川岳ロープウェイの駅に着く。
ここ土合口から標高約1300mの天神平までを10分程で結んでいる。



ロープウェイ乗り場を過ぎるとすぐ、道は冬季車両通行止めの区間に入る。
ここから突き当たりの一ノ倉沢まで、狭い未舗装の道が崖に沿って約3km続く。


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息を切らしながらも、粘り強く進んでいく。
水上駅前から出発して既に1時間以上経っていた。
そろそろ着くのではないかと思っていたところで、道が左に大きく曲がる。
そして、その左カーブを曲がりきったところで、有無を言わさぬ圧倒的光景が眼前に現れた。


一ノ倉沢

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視界の全てを遮るのは、標高差約1000m近くある切り立った岩壁だ。
穏やかさなどとは程遠い剥き出しの山の姿は、近づき難くも飲み込まれるような魅力がある。
遭難死者の数でギネス認定されている谷川岳だが、亡くなられた方の大半がここ一ノ倉沢の岩壁登攀での滑落事故によるものなのだという。

壮厳な景色に見入っていると、先の登山道から屈強な登山家と思しき方がやって来た。
話を聞いてみると、昔は岩壁の前にクライマーの行列ができてたとか、毎週一人は岩壁から落ちて亡くなっていたとか、当時の生々しい実情について詳しく話してくれた。


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いきなり岩壁の方から、ゴロゴロゴロと地鳴りのような音がし始めた。
よく見ると、崖の凹みに沿って解けかけた雪が流れている。
数ヶ月前にもあの辺りで滑落して亡くなられた方がいるのだという。
美しい風景だが、つくづく恐ろしい場所だと思う。


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ロッククライマーの方に色々話を聞かせて頂いた後、岩壁に向かって一礼しその場を立ち去った。
次は土合駅の探索だ。再びペダルを漕ぎ、急ぎ足で土合駅へと向かう。
この時点で既に予定の時間からかなり遅れていたのだが、帰りのSLを諦めたくはなかった。

素晴らしい絶景の前では、細かい時間の経過なんてどうでもよくなってしまう。
見てるだけで飲み込まれるような魔の山の大岩壁は、圧倒的な威圧感とともに、
飲み込まれていった若きクライマー達の想いが迫ってくるようであった。


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