異界の駅、国道へ

「鶴見線スナップ散策 4/4 (扇町~国道~鶴見)」

[2016/7/2]


国道。鶴見線の中で最もディープであり、現実離れした異界の駅である。
数年前初めて訪れたとき、私は国道駅の存在に衝撃を受けた。
闇市を思わせる空間、歴史を感じさせるアーチ天井、生々しく残る銃痕。
行かれた方にはわかってもらえると思うのだが、あそこはマジでヤバイ駅だと思う。

ということで、個人的には完全崇拝レベルのあの駅へ、もう一度行ってみることにした。
扇町から鶴見行きに乗って、鶴見手前の国道へ向かう。


鶴見線 [扇町~国道]

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夏は陽が長く乗り鉄には有難い季節だ。時刻は19時前だが、陽は何とかギリギリ持った!
冬だと今日の鶴見線散策は成立してなかっただろう。出発の時点でお先真っ暗だったに違いない。
19時ちょうど発の鶴見行きに乗り込む。ガラガラの車内に車掌の声が響き渡り、列車は動き出した。

陽はすっかり没し、運河越しに昭和電工のプラントが光り始めた。
扇町は、東の浮島町~千鳥町~水江町に次ぐ川崎工場夜景の一角である。



鶴見線の電車は国鉄生まれの年代物だ。そして、俺は国鉄電車のフカフカ座席が好きだ。
JRのS字座席は「シャンと座りなさい!」って強要されてるようで、しっくりこない。
鬼畜の仕事帰りでも国鉄の座席にありつけば天国!
姿勢を強いられないし、懐深い座り心地に愛着が持てるのさ。


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ディープな工業地帯を抜け、武蔵白石から列車は市境を越えて横浜市へ入る。
一応”横浜”なのに、横浜のお洒落でカッコいいイメージとは程遠い風景だ。
千葉県民的な視点だと、都心のシャレオツな街並みを想像してしまうし、
横浜=コレじゃない感が300%全開なのは間違いない。

浅野を過ぎ乗客が増えてきたところで、列車は国道へ到着した。


国道駅

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再びやってきたぞ、国道!この駅の何が良いって、まずシンプルな駅名だと思う。
国道の横に駅を建てたから「国道」だなんて、どんだけ潔いんだって話。
ストレートだし、シンボリックなカッコよさがある。

列車が去ると、ホームは私を除いて誰もいなくなった。



国道の乗り場は、起点の鶴見と似通った構造だ。カーブを描く線路上にホームがある。
剥き出しの鉄骨屋根に昭和を感じるし、年季が入っていて見ごたえがある。
高架上でも雑草は生え放題だ。雑草最強説キタコレ。

俺は鶴見線に乗って知った。野良猫と雑草の逞しさを。


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他の在来線と違う、黄色い駅名板に鶴見線の特異性を感じる。
ていうか、なんでこんなに凝ってるんだろ??
普段見かける国鉄の青いやつとも、JRの白いやつとも違う。
帰宅後グーグル先輩に聞いても理由はわからなかった。謎が謎を呼ぶ展開。


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ホームを撮った後、お待ちかねの高架下へ。国道駅は三層構造になっていて、
上層の上り・下りホームは、高架下中層の連絡橋で繋がっている。
中層の時点で吹き抜けになってるので、独特の駅構造を眼で見て味わえる。

初めてきたとき、連絡橋から見下ろしたときの衝撃は忘れられない。


国道高架下


国道駅の凄いところ。それは、1930年の開業時から一度も改築していないことだ。
1930年。つまり、昭和初期(昭5)の様相をそのまま残して今に至っているのである。
鶴見線は大半の駅が昔のままだが、国道駅のホームは高架上に存在しており、
広大な高架下も含めて昔のままで残ってることに価値がある。

何時見ても強烈な空間だ。海芝浦も衝撃だったが、横浜にこんなヤバイ駅があったのかって、
ときのとまった空間に吸い込まれそうになったのを覚えてる。


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「やっぱココすげぇわ…!」独特の空間に圧倒されながら、階段を下りていく。
階段を下りると改札があるが、無人駅なのでSUICAタッチ機が置いてあるだけだ。

以前来たときは木造の有人改札跡が残っていたが、今は撤去されてしまったらしい。残念!



国道高架下を魅力たらしめているのが、造形美を感じるアーチ天井。
これは、昭和初期に流行ったアールデコ様式というやつだ。
開業当時、駅構内はちょっとしたデパートだった記録が残っている。その名も「臨港デパート」。
デパートとして発展させる構想があったから、お洒落なアーチ天井にしたんだろか??

信じられないのだが、今で言う“駅ビル”の走りみたいな繁栄が、昔この駅にあったというのだ。


Kokudo Station old

「開業時の国道駅 (Wikipediaから引用)」


開業当時の写真を見ると、多少の変化はあるが、建物の意匠は全く変わってないことがわかる。
今は片側のみだが、昔はホーム両側に階段・改札があったらしい。
クロサワ映画(野良犬)で闇市を再現するために使われたエピソードもあり、
今もどっかのドラマのロケで起用されてるのは有名な話。

アーチ天井だけじゃなくて、柱根元の煉瓦とか未だに残ってるんだから凄い。



一つ残念なのは、老朽化してヤバくなってきた物件が板張りで塞がれていることだ。
確実に老朽化が進んでいて、今後板張りがさらに増えると思われる。
訪れるなら今のうちかもしれない。

板張りに囲まれて未だ存在しているのが、一軒の焼き鳥屋。
「国道下」と名乗っている。ド直球(笑)。そういうセンスって素敵。



昔、国道高架下は商店や住宅で賑わっていたらしいが、今は見る影も無くひっそりとしている。
人の繁栄が消え、物件だけがそのままの姿で取り残されているわけで、
誰かが住んでいた形跡が至る所に残っている。

赤いポストに剥き出しの配線類、換気扇、煤けた引き戸。
現実離れしてるのに、日常と隣り合わせのモノが共存してるのがタマラナイ。
一ヶ所だけある隙間の通路(?)とか、謎すぎる。実はここから駅を出ることも可能。


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地元民にとってここは単なる抜け道に過ぎないようで、意外と人通りは多い。
以前来たときは昼下がりだったが、構内の明るさは昼も夜も全く変わらない。
薄暗い外套の下から闇市の商人が出てくるのではないか。
そんな妄想をしたくなる光景。


国道15号


外に出ると、目の前は国道。東京~横浜を結ぶ国道15号が通っている。
鶴見線と唯一交差する国道であり、旧国道1号という輝かしい肩書きを持っている。
神奈川の人が国道15号を「一国」と呼ぶのは、それが主な由来。イチコクってカッコいい響きだな……!

駅入口の右手には、大川支線でも残ってた米軍飛行機の銃痕が。
中層のアーチ窓は完全に塞がれていた。アーチ窓も国道の個性だったのになぁ。



3年前の探索画像とドッキングしてみると、昼も夜も大して変わらない印象だ。
陽が出ようが沈もうが、同じ明るさで不変の存在感を放っている。
80年前の世界が高架下に閉じ込められて、住宅街の中に存在し続けているという事実。
吸い込まれそうな引力がありますね。ブラックホール IN 国道!


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鶴見線の世界にずっと浸っていたい。


俺が鶴見線好きでしょうがないのは、ディープなのにインパクトがあってわかりやすいからだ。
中途半端な残念感は一切無いし、「眼の前が海だ!」とか「1日3本しか来ない!」とか、
初見でも「ここマジで面白い!」ってなる魅力に満ち満ちてるんだと思う。

19時半を過ぎたところでホームへ戻り、鶴見へ帰還。コンパクトな鶴見線散策を終えた。
探索時間はたったの3時間。なかなか濃い濃すぎる3時間だった。


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全線攻略した感想としては……やっぱり、鶴見線は何処へ行ってもハズレが無かった!
大人のアトラクションみたいで楽しいし、飽きない。特に人少ない休日は最高。
乗り鉄辞めても、小湊鉄道と鶴見線だけは再来しようと思ってる。
今日の散策で、「東の小湊鉄道/西の鶴見線」という横綱構図(?)が成立しました。

今回行った鶴見線散策は割と実用的だと思ったので、以下に詳細な時刻とルートを記してみました。
6~7月の休日限定プランです。4~5月や8~9月だと途中で陽が暮れますが、
扇町で工場夜景を楽しめるのでそれはそれで面白いかも。

鶴見発16:20→海芝浦着16:31→海芝浦発16:53→新芝浦着16:55→徒歩&散策(約20分)→浅野着
浅野発17:22→武蔵白石着17:25→徒歩&散策(約30分)→大川着
大川発18:01→安善着18:05→安善発18:09→昭和着18:15→徒歩&散策(約40分)→扇町着
扇町発19:00→国道着19:15→国道探索→帰路へ


天下の東海道・横須賀線は通過してしまう駅、鶴見。
よそ者は京浜東北でしか来れないこの駅に、人知れず異界へと誘うローカル線があった。

(終わり)

コメント

  1. まさあき より:

    国道駅すごいですね。
    建築設計の仕事に携わってるので、もの凄く興味あります。
    夕方プランを参考に、行ってきてみます。

  2. なまらゆうと より:

    国道駅は一見の価値アリですよ。
    誰が行っても「何だココ!?」ってなる強烈な個性が、たまりませんね。
    是非、海芝浦駅とセットで来訪されてみて下さい。

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