山陰本線の旅(後編)

「山陰出雲一人旅 3日目 (松江~益田~長門市~小串~下関~博多~成田)」

[2015/9/5]


至極順調な山陰本線の旅も最終日を迎える。昨日は木次線のトロッコ列車と出雲大社を観光したが、
今日は松江から山陰本線をひたすら西へ乗り継いで下関を目指していくことになる。

下関へ到達したら在来線で九州入りし、福岡で飛行機に乗って帰路へ着く必要があるのだが、
山陰本線の列車を一度でも乗り遅れてしまったり、何かトラブルが生じて大幅な遅延が起きた場合、
帰路の飛行機に間に合わなくなってしまう。そういう意味では鬼畜な行程だ。


松江駅

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朝7時半に起床した私は、まずホテルのバイキングでしこたま腹を満たした。
鈍行旅で必要不可欠なのが充実した朝飯だ。朝のうちに食べとかないと頭も体も働かない。
バイキングを食べつくし、早めにチェックアウトして松江駅へ向かった。

「お願いしまーす」「ハイありがとうございまーす」


残り一日分となった18切符を改札で差し出す。これは鉄旅の儀式みたいなもんだ。
10分ほど待つと今日最初に乗る列車がやってくる。長大なるローカル線、山陰本線の旅の始まりだ。


山陰本線 (アクアライナー) [松江~益田]

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9時02分発の益田行き快速「アクアライナー」は、昨日と同じく二両編成の気動車である。
コスト志向の新型気動車だが、車内はほぼ全てがボックスシートになっていて乗り鉄には有難い代物だ。
シートピッチもかなり余裕がある。到着するとドッと乗客が降りてきたので、空いたボックスシートを確保する。
座るのはもちろん進行方向右の日本海側。私が心底楽しみにしてたのは出雲から先の日本海区間なのだ。

列車は松江を出ると、しばらく宍道湖の脇を走る。湖の向こうには昨日乗った一畑電車が走っているのだ。
玉造温泉で一気に観光客が増えた。この区間は電化されているが鈍行は気動車しか走ってない。
陰陽強化の電化区間と非電化区間が入り混じる、山陰本線独特の運用形態だ。



宍道湖を離れると、列車は木次線と接続する宍道へ。
宍道と書いて「しんじ」であり「ししどう」ではない。
私は昨日までししどうだと思っていた。結構な難読駅である。

昨日乗った快速は何度も列車の待ち合わせをしたが、今日の快速は一度も待ち合わせをしていない。
宍道を出ると、列車は田園と住宅の中を駆け抜ける。


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直江でようやく列車の待ち合わせをした。昨日乗った効率の悪い快速とは大違いだ。
一畑電車と合流すると、列車は出雲市へ到着しドッと乗客が降りていく。
出雲市から、山陰本線は延々と日本海沿いを走っていくことになる。

山々が深くなってくると日本海が近づいてきて、小野を過ぎたところで列車は海のスレスレに出た。
トンネルとトンネルの間に、人が立ち入れなさそうな秘境地帯が見える。


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この地域の民家は重厚な瓦屋根が多く、屋根の装飾が凝っている。さすが神々の国だ。
海沿いを離れて住宅街へ入ると大田市へ到着するが、ここでトラブルが発生した。
どうやら列車が故障したらしい。
しかし大した問題ではないらしく、数分の点検の後すぐに発車となった。



大田市からしばらくは田園の中だが、長いトンネルを抜けたところで再び日本海へ近づく。
人家は相変わらず古い瓦屋根のものばかりで、田んぼのところどころで野焼きの煙が上がっている。
海沿いに小さな集落を幾つも形成していて、山陰本線はそんな集落の一つ一つを単線非電化で結んでいるようだ。


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温泉津で列車待ち合わせのため、数分停車となる。
さっき生じた故障の影響で、この先停まる駅の乗り場が変更されるらしい。
海沿いの集落と閑散とした土地をひた走り、列車は江津に到着した。

江津からは日本海の近くを行ったり来たりしながら市街を進む。
都野津で再びアナウンスが入った。「車両の故障が思った以上に甚大」だという。
この先ですぐ車両点検を行う必要が出てきたため、列車が益田から浜田止まりに変更となった。


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浜田からは違う列車に乗り継がなければならないらしい。
取り敢えず、代替の列車を用意してくれたから良かった!
代替が無かったら帰りの飛行機に間に合わなかっただろう。正直笑えない冗談である。

浜田に到着すると隣のホームに移ってくださいと放送が入ったので、移動。大人しく代替列車を待つ。


アクアライナー (代替) [浜田~益田]

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本来益田まで行くはずだったが、列車が故障したためアクアライナーは浜田で一旦運転を取りやめることになった。
故障した列車の代わりとして急遽運行されることになった浜田発益田行きに乗り換えるため、3番線へ移動する。
しばらくすると列車が来た。車両は先程と同様キハ126。
反対から来た列車が折り返しでそのまま使われるようだ。



11時46分、時刻表には存在しない浜田発益田行きの臨時快速アクアライナーが出発する。
既に20分の遅れが出ているが、益田では次の列車まで余裕があるので問題ない。

浜田から列車はノスタルジックな街の中へ。折居付近に差し掛かると再び日本海スレスレを走る。


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三保三隅という変わった名前の駅で地元の学生が乗り込んできた。
三保三隅からは断崖の真っ只中を走り、右手に日本海が広がる。
「何でこんなところに線路を引いたのか??」と思わざるを得ない土地ばかりだ。

絶景区間を抜けて、鎌手で列車待ち合わせのため数分停車。
車内は既にガラガラで、一つのボックスシートに一人一人といった感じである。


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日本海の景色も素晴らしいが、私が好きなのは小さな港の集落だ。
こんな鄙びた土地でも人々の営みがちゃんとあるんだって実感する瞬間である。

さっきから鉄オタが数人かぶりつきをしていて、待ち合わせの停車とわかると車内をウロウロしている。
そういや今かぶりついてる奴、さっき列車に乗るとき座席を確保しようと地元客を退けてた輩だ。
手で退けたら退けたで「すいません」と謝っていたが、そもそも謝る以前の問題だろ!って。

俺も結構な鉄オタだけど、ああいう頭オカシイ連中とは関わりたくないな……!


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海岸沿いをひた走ると、臨時快速は26分遅れて終点の益田に到着した。
益田の滞在時間は40分強。次乗る列車まで時間があるので駅前をブラブラしてみるが、
駅前は典型的な近郊街で名物的な何かがあるわけではないようだ。

売店で食料を買って大人しく待っていると、長門市行き鈍行がやってきたので乗り込んだ。


山陰本線 [益田~長門市]

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益田から先、山陰本線は屈指の閑散区間となる。
時刻表を見る限り、この区間は優等列車が一切走ってなく、一日数本の鈍行しか走ってない。
しかもその鈍行が単行か二両編成のワンマン列車だから、想像以上の閑散振りである。
益田~長門市を走りきる列車は往路復路とも1日6本のみ。
山陰本線で最もローカルな区間へこれから突入するというわけだ。

13時27分発の長門市行きは単行の国鉄気動車である。車両は相変わらずのキハ40。
車内はほぼ全てがボックスシートになっている。しばらくガラガラだったが、
出発が近づくごとに乗客がみるみるうちに増えて満席状態となった。

単行の鈍行しか走ってない閑散区間の実態を、私はこれまで何回か目の当たりにしてきた。
小樽~長万部の函館本線もそうだったが、こういう区間は絶対に混む。
本来特急に乗るはずの観光客が鈍行になだれ込んでくるからだ。


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満席状態になったところで定刻となり、長門市行きは益田を出た。
これまでも日本海沿いだったが、益田からも相変わらず日本海のスレスレを走る。
車窓には茶色い瓦屋根の民家が並ぶ。益田市街を出ると列車は再び海に食いついた。



この区間は絶景の連続で、険しい断崖を列車が突き進んでいく。
飯浦からはしばし海を離れ、内陸の山間を進む。
延々と坂を上って峠を越えると、列車は異常に速度を落として進行。
西日本お得意の“必殺徐行”である。

鬱蒼とした木々とトンネルを進む様は、とても本線とは思えないローカルぶりだ。


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江崎付近はのどかな山里の中だ。須佐が近づくと惰性で下り勾配を下っていく。
須佐では地元客が5人ほど降りていった。再び日本海へ近づくと、木与までひたすら海沿いを走る。
木与から列車は内陸へ入り、住宅が多くなってきたところで奈古へ。
国道とともに日本海沿いをひた走り、山里へ入ると萩の地が近づいてくる。

14時38分、列車は東萩へ到着。萩市街を大回りした後、日本海の元へ。
人気の無い断崖海沿いを行き、長い下り坂を下ると三見へ着く。
対向列車が遅れているため5分ほど立ち往生した。


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三見から山陰本線は秘境っぽい閑散区間へ突入する。この区間の車窓は素晴らしい。
勾配を上りながら断崖のスレスレを走り、日本海の絶景を拝みながら峠を越えていく。

鬱蒼とした山の中には、一本の線路と列車を除けば本当に何もない。


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風光明媚な景色が続く中で、たまに古民家とこじんまりした海岸が現れ車窓を彩る。
超閑散区間を過ぎると人家が多くなってきて、列車は終点の長門市へ到着した。

絶品の車窓に目が眩んだがのんびりしてる場合じゃない。長門市の乗り継ぎ時間は僅か6分なのだ。
何が楽しいのか知らんが、維持でも座席を確保しようと全力疾走している”鉄”が散見される。
跨線橋を渡って、隣のホームに停まっている小串行き鈍行に乗り換えた。


山陰本線 [長門市~小串]

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15時24分発の小串行き鈍行は、二両編成の気動車キハ40。
車内はロングシート多めのセミクロスシートであった。
長門市~小串の所要時間は一時間強。
閑散区間は通り過ぎてしまったが、ここからも日本海沿いを行く区間が点在する。

この区間は観光列車「みすゞ潮彩」も走っているが、私の乗り継ぎパターンには噛み合わなかった。
乗ってみたかったが、今回ばかりは致し方あるまい。



単行に詰め込まれていた乗客が二両編成の列車にバラついたので、車内は少し余裕がある。
ボックスシートに座れなかったので、ドア脇にこじんまりと設けられているロングシートに居座った。
定刻通り長門市を出ると田園地帯を突っ走り、伊上から日本海沿いへ。
先程の区間ほどではないが、眺めは素晴らしいの一言だ。


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阿川から内陸部へ戻り、上り勾配で高度を稼ぎながら山間へ入ると特牛という美味そうな名前の駅に着く。
沿線では野焼きをやっていて、ドアの近くにいると煙の臭いが入ってくるのがローカル感あっていい。
長門二見からはまたしても日本海に沿って進み、小串手前では険しい断崖を行く。

小串到着は16時36分。ここから遂に山陰本線最後の鈍行に乗る。
乗り継ぎ時間が短く僅か3分で乗り換えなければならない。


山陰本線 [小串~下関]

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16時39分発の下関行き鈍行は、もはや説明無用の二両編成キハ40。
最後の最後までタラコ色だったのが意外だ。
これまでは完全な閑散地帯だったが、西側の山陰本線は小串から少しずつ乗客が増えるらしい。

列車はすっかり多くなった人家と田園の中をひた走る。
この区間は車掌が乗務するようだ。久しぶりの肉声にホッとする。
小串からは街中と田園がほとんどだが、吉見から福江にかけての一駅間だけ海沿いを走るようだ。
山陰本線は最初から最後まで素晴らしい車窓だ。偉大なるローカル線は伊達じゃなかった!


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下関へ近づく度に、少しずつ地元客が増えてきた。
綾羅木という雅な駅を過ぎると山陰本線は山陽本線と合流し、その長い長い道のりを終える。
本当に長い長い道のりだった。

山陰本線の終点は幡生だが、列車は本州最西端の下関まで走り抜く。



「ご乗車、ありがとうございました。終点の下関に到着です。」


山陽本線の線路を間借りして、山陰の国鉄気動車が最後の路を走っていく。
やがて17時27分、女性車掌のアナウンスとともに終点の下関へ到着した。


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下関、到達!!


着いたぁああああああああああーーーーーーーー下関!
長かった……山陰本線の道のりは本当に長かった!
全線完乗の達成感を抑えきれなかったのか、思わずやった“グッジョブ自撮り”(流行らなそー)

今回最後までお世話になったキハ40を見送った後、私は山陽本線の乗り場へ向かった。
カフェでも寄って余韻に浸りたかったが、そんなことしてると帰りの飛行機に間に合わない。
缶コーヒー買って一服してるうちに、関門海峡を越える行橋行き鈍行がやってきたので乗り込んだ。


山陽本線/鹿児島本線 [下関~博多]

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下関からは帰路だ。
成田へ向かう飛行機に乗るため、まずは下関から福岡空港へ向かわなければならない。
17時38分発の行橋行きは交直流対応の国鉄電車。見た目は昔の常磐線と瓜二つだ。
完全に昭和の列車だが、車内は魔改造帝国の西日本らしく真新しくなっている。

下関を出ると列車はトンネルに入り、関門海峡を抜けて九州へ入る。
日豊本線と接続する小倉で、私は下車した。
このまま鈍行に乗って進んだ場合、空港のチェックインに間に合わない恐れが出てくるので、小倉からは特急に乗って博多を目指そう。


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18時05分発の「ソニック48号」は、大分から日豊本線・鹿児島本線を経由して博多へ向かう特急だ。
その二時間強の道のりのうち、小倉から博多までの区間だけ利用させてもらおう。
近未来デザインのJR九州は、車内が独特のインテリアになっていて毎回びっくりさせられる。
床が木目で座席がSF風のデザインだ(汗)。確か鈍行や快速も同じようなデザインだったはず。


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鹿児島本線を突っ走り、日が暮れたところで博多へ到着。ここからは地下鉄だ。
福岡空港は地下鉄が乗り入れているので、行くのは簡単である。


福岡市地下鉄空港線 [博多~福岡空港]

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福岡市地下鉄空港線は姪浜から福岡空港を結ぶ路線で、福岡で最も古い地下鉄らしい。
空港直結路線といえば成田や羽田も乗り入れてるが、福岡の路線は他社の路線を一切介さず、同線内で福岡市交通局が運行する列車のみが空港直下へ乗り入れる。
そういう意味でこの路線は日本唯一である。

福岡空港は博多からたった二駅隣にある。
さすが日本で一番便利な空港といわれるだけあって、アクセスの容易さは群を抜いている。
いや……千歳や成田が不便すぎるのかもしれない。

すぐにやってきた福岡空港行きに乗って、ほんの数分で福岡空港へ。
ここからようやく飛行機だ。今回ばかりは運が良かった西日本とお別れである。


ジェットスター国内線 [福岡~成田]

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20時20分発のジェットスター成田行き最終便は、少し出発が遅れそうな気配だ。
単独で飛行機に乗るのは初めてだがLCCを利用するのも初めて。
LCCは頻繁に遅延が発生すると聞いたが、今回もやはり遅れるらしい。
これ以上遅れると成田から家に帰れなくなる恐れがある。

単独の飛行機は初めてで手続きに戸惑ったが、ジェットスターはウェブチェックインでスムーズに手続きができた。
端末に予約番号を入力するだけであっという間に手続き完了。
今日取った最終便の値段は9540円。
新幹線よりも遥かに安い値段である。平日はもっと安いらしい。

荷物チェックを済ませ、待合スペースに着くと休日帰りの行楽客でごった返している。
しばらくすると入場のアナウンスが入り、後部座席の乗客から飛行機へ乗り込む。
やがて定刻から20分遅れて、ジェットスターの最終便は福岡空港を出発。
エアバスの普及型旅客機A320が、休日帰りの客を満杯に乗せて成田へ飛び立った。



荒い気流に揺られながら夜景を眺めているうちに、私は今回の旅が大成功したことを確信した。
全てのコンセプト通りに乗り通すことができたし、ギチギチながら色々なところへ行けたのがよかった!

22時20分、気流の中を突っ切って最終便は成田空港へ着陸する。
ジェットスターの降り口はターミナルビルからめちゃくちゃ離れてるらしい。
飛行機を降りるとバスに誘導され、空港ビルへ移動。こうして今回のLCC初体験は幕を閉じた。


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唯一の誤算といえば、ジェットスターが引き起こした遅延でスカイアクセスの終電に乗れなかったことであった。
「まさか今日中に家に帰れないのか!?」と冷や汗をかいたが、乗り鉄はこんなところで挫けない。
23時過ぎに出る京成の津田沼行き最終電車と、新京成の松戸行き最終電車を使って、超ギリギリの終電繋ぎで25時過ぎに何とか帰宅。
マジで助かったぜ、新京成!!

・旅の総運賃:36000円(18切符3日分+特急券/指定席券代+バス運賃+飛行機運賃)
・乗った乗物の数:鈍行14本+快速5本+特急2本+バス4本+飛行機1機
・総距離/所要時間:約1300km/2拍3日(飛行機の距離を除く)


今回の山陰本線の旅は、これまで決行した中でも素晴らしい旅となった。
山陰本線は昔ながらの原風景が残ってたし、地元の人々にとりわけ温かみが感じられたのも良かった。
個人的に印象に残ってるのは茶色い瓦屋根の民家群だ。多分あの地域でしか見られない街並みだろう。

全五記事に及んでしまったが、本稿で悔やみ一切無しの山陰出雲一人旅を終幕する!

(完結)

コメント

  1. 三塚ハル より:

    山陰本線完乗おめでとうございます!

  2. なまらゆうと より:

    三塚ハル様、コメントありがとうございます。山陰本線、素晴らしかったです!
    今までやってきた鉄旅の中でも、この旅行は充実したいい旅になりました。
    記事もそれなりに鉄道旅行らしい(?)内容に出来た気がします。

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