「秋田ローカル鉄道旅 2日目 (角館~鷹巣~弘前~新青森~東京)」
[2015/10/17]
これから乗る秋田内陸縦貫鉄道は「あきた♥美人ライン」という愛称が付いている。
「♥」(はぁと)はもちろん正式な表記で私が悪ノリで勝手に付したものではない。
この愛称は2012年に公募によって決められたのだという。
秋田内陸縦貫鉄道
秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸線。角館から秋田の内陸を縦貫し鷹巣までを結ぶ、第三セクター鉄道である。
全長100km近くにも及ぶこの路線は、国鉄時代は二路線(阿仁合線・角館線)に分断されていた。
鉄道建設の大元となる鉄道敷設法によれば「秋田県鷹ノ巣ヨリ阿仁合ヲ経テ角館ニ至ル鉄道」として定められ、
まず1934年に鷹ノ巣から線路を延ばして阿仁合線が開業した。
阿仁合線の開業に続き、70年代に入ると角館からも線路が延ばされ角館線(角館~松葉)が開業する。
この二路線は後に一つの路線となって繋がる構想だった。しかし、その夢は国鉄時代には叶えられずに終わった。
80年代に入ると国鉄はジリ貧となり、ローカル線を特定地方交通線に指定して次々と廃止・転換していったのだが、
阿仁合線・角館線も特定地方交通線に指定され、進んでいた未開業区間の工事が凍結してしまったのである。
しかし地元の熱意もあり、1986年の三セク転換後に凍結していた未開業区間の延伸工事を再開。
やがて1989年、かつての構想どおり全線が開通し秋田内陸縦貫鉄道は誕生したのだった。
全通から四半世紀が経過した今、秋田内陸線はギリギリの経営状態ながら秋田の名物として健在していて、
AKBから演歌歌手に転身した岩佐美咲のソロデビュー曲「無人駅」のPVにも登場している。
PVの舞台は秋田だが岩佐美咲は千葉県流山市出身らしいw。ちょっと意外。
角館駅内で片道全線切符を購入し、私は臨時列車のもとへ向かった。
小さな乗り場に停まっていたのは年季の入った二両編成の気動車だ。
森吉山麓紅葉号 [角館~弘前]
森吉山麓紅葉号は、秋田内陸縦貫鉄道が毎年秋に限定運行している臨時快速列車である。
秋田の紅葉盛りとなる10月土休日に増発されるこの列車は、
奥羽本線の弘前を起点として鷹巣を経由し、秋田内陸線の全線を走破する直通列車だ。
コレに乗れば弘前~角館間を一本で行くことができる。
秋田内陸線の本数は非常に少なく、その多くの列車が阿仁合を起終点としている。
現時点で全線を走り切る鈍行は往路復路とも1日4本のみ。旅の行程に組み込むには厳しいダイヤとなっている。
今から乗る復路の森吉山麓紅葉号は、14時41分に角館を出発し4時間弱かけて終点弘前へ向かう。
列車種別は「快速」となっていて急行料金は必要ない。大盤振る舞いの見本のような列車である。
車両は先頭部が流線形になっている二両編成の気動車で、転換クロスシートがズラッと並ぶ。
以前急行にも使われていたこの車両、今は臨時列車のみで使われているという。
予想以上に閑散とした中で写真を撮った後、ソロソロと流線形気動車に乗り込んだ。
森吉山麓紅葉号の車内はこんな感じ。秋田内陸線全通から走り続けてきた車両で年季が滲み出ているが、
私は寧ろ長年の年季が醸し出す味が好きだ。座席もJRの電車とは比較にならない快適さ。
定刻がくるとディーゼルエンジンを唸らせ、森吉山麓紅葉号は角館を出た。
列車は角館を出ると田沢湖線と分かれ、一路北上する。右手には奥羽山脈が聳える。
紅葉列車らしく、女性アテンダントが車窓を詳細に案内してくれるが、
そのアテンダントさんによると、これから内陸線は標高300mまで上っていくらしい。
往路はどうだったのかわからないが、復路の紅葉号はガラガラである。
角館から三駅隣の八津で対向列車待ち合わせのため、数分停車。
こっちはガラガラなのに、対向から来た気動車はめちゃくちゃ混雑していたからびっくりした。
八津から内陸線は鬱蒼とした山あいに入り、両側に紅く染まった山々が見えてきた。
旧角館線の終着駅だった松葉を過ぎ、桧木内川と交差しながら秋田の山間部へ入っていく。
松葉からしばらく先は紆余曲折の果てに開通した新線区間だ。
戸沢を出ると列車は市境の峠を貫く十二段トンネルに入る。県内最長のトンネルである。
長大トンネルを抜けると阿仁マタギに到着。この辺りから紅葉が素晴らしくなってきた。
紅葉号ではアテンダントさんによって車内販売が行われるらしい。
完全に旅費が限界だが、何も買わないわけにもいかないしなんとなく流れ的にマズイ。
取り敢えずりんごのお菓子を一つ買うことにした。県内産のりんごを使ったノンフライチップスだ。
「すいません、実はもう帰りの新幹線の分しか旅費が残ってないんですよー、ハハハ……」
「そうですか、大変ですね~。……何処からやって来られたんですか??」
「東京から来ました。明日から仕事なので、今夜新幹線で東京に帰ります」
「そうですかー、これから先で紅葉が綺麗になってきますので、楽しんでいって下さいね~」
おしとやかなアテンダントさんは、東京では醸し出せない奥ゆかしい雰囲気を纏っていた。
何時の間にか並行する川は渓谷へと姿を変え風光明媚な景色が展開する。
奥阿仁を出てしばらくしたところでは、内陸線の名物である比立内橋梁を渡る。
観光列車らしく橋に差し掛かるとゆっくり徐行し、右手に渓谷の絶景が広がった。
比立内橋梁の絶景を過ぎると、旧阿仁合線の終着駅だった比立内に到着する。
ここで再び対向列車待ち合わせのため数分停車となった。
比立内からは旧阿仁合線の区間へ入る。渓谷の脇を縫うように進み、
もう一つの名物として知られる大又川橋梁に差し掛かると再び徐行。右手に現れたのは二重の道路橋が重なる絶景だ。
眼下を流れるのは風光明媚な阿仁川。
内陸線最大の景勝地として、この橋の景色は広告でよく使われるという。
鉄路と同じ高度で架かっているのが国道105号で、その下に架かってるのが国道以前から存在する旧道である。
阿仁合駅
どうやら、復路のアテンダント常務は阿仁合までらしい。
二つの名物橋梁を過ぎいくつか駅を過ぎると、列車は拠点となる阿仁合へ到着。
「ありがとうございました~」とアテンダントさんが別れの挨拶を交わし、列車を降りていった。
16時過ぎ。数分だけ停車した後、紅葉号は定刻通り阿仁合を出る。
阿仁合から列車は阿仁川の脇を走り、左手に川沿いの風景が広がるようだ。
ここまで来ても車内は相変わらずガラガラ。
アテンダントさんがいるといないとでは、やっぱり雰囲気がガラッと変わる。
華やかな紅葉列車というよりは哀愁のローカル列車だ。車窓案内もなく淡々と川沿いをひた走っていく。
阿仁前田で観光客が3人だけ乗り込んできた。
左手に広がる雄大な阿仁川の景色は、宗谷本線の天塩川とシンクロするものがあった。
阿仁前田からも阿仁川の風景が続くが、米内沢を出たところで列車は川沿いを離れた。
米内沢からは人家が多くなってきて、素朴な平野をひた走りに走っていく。
合川で対向列車待ち合わせのため数分停車。対向の鈍行は地元の学生で埋まっていた。
ここまで来れば内陸線の道のりもあと少し!
終点近くでは夕日が没する瞬間が拝めた。正に絶好のタイミングだ。
鷹巣駅
16時53分。奥羽本線と合流すると、列車は秋田内陸線の終点鷹巣へ到着となる。
紅葉号はこの先で奥羽本線に入り弘前へ向かうが、
線路や列車の運用の都合上、内陸線は奥羽本線にすぐ直通ができない。
そのため、この駅では30分強かけて列車の入替作業を行うらしい。
鷹巣に列車が到着すると、まず内陸線のホームに入線して降車客を降ろした。
内陸線のホームで数分停車した後、列車は一旦バックし内陸線の線路上で長時間停車する。
線路内で10分ほど停車した後、列車は奥羽本線の線路に入りJRのホームへ入線した。
あとはこのまま奥羽本線を進み、終点弘前を目指すのみである。
紅葉号は鷹ノ巣を定刻通り出ると、日が暮れ真っ暗になった中を駆け抜けていく。
外は何も見えなくなってしまったので、今日最後の食料となる駅弁を食べることにした。
車窓を眺めながら食べるのが乙だが、私の場合、日中はレポに全てを注ぐため食べる時間がない。
あきたこまち弁当。シンプルな幕の内弁当だが、下手に凝ってるより気を衒わない弁当が個人的には好きだ。
17時45分に列車は大館に着く。向かいのホームには花輪線の鈍行が停まっている。
名ばかりの快速が横行する作今だが、紅葉号は最初から最後まで停車駅が少なくて良い。
碇ヶ関の到着は18時06分で、18時16分に大鰐温泉を出た。4時間弱の道のりもあと少しだ。
この区間の奥羽本線は普段、JRのロングシート電車で耐え忍ぶ乗り鉄泣かせの区間だが、
今乗ってるのは内陸線が誇る快適気動車である。その手堅い走りを今回は味あわさせて頂いた。
弘前駅
「弘前、到達!!」
18時28分、森吉山麓紅葉号は終点の弘前へ到着した。
どうせなら青森まで走ってほしいが、森吉山麓紅葉号の役目はここ弘前までだ。
10分後に発車する青森行きに乗るため、紅葉号に別れを告げた後はすぐに3番線へ向かった。
秋田内陸縦貫鉄道の車窓で展開したのは、懐の深い山岳路線としての景色だ。
秋田の内陸の険しさは伊達ではなく、峠を長大トンネルでぶち抜いた先には想像以上に深い渓谷があった。
存廃論も飛び交う秋田内陸線だが、あの風光明媚なローカル車窓が見れなくなるのはもったいない。
行く先厳しい経営状態が続くと思うが、何とか存続していけないものかと願うばかりだ。
リゾートしらかみ [弘前~新青森]
弘前からは、まさかのリゾートしらかみ号で新青森へ向かう。今回の旅の最後を飾る列車である。
18時42分発のリゾートしらかみ5号は4両編成の気動車。秋田から五能線を経由して遥々やってきた奴だ。
派生列車のリゾートみのり号と同じく座席はシートピッチの広いクロスシートで、展望スペースもある。
弘前から青森までの所要時間は40分ぽっきり。最後のおまけ行程だが、コレが結構馬鹿にならない。
車内はガラガラで1号車には私を含めて二人しか乗ってない。
真っ暗闇の中をひた走り、40分後に東北新幹線と接続する新青森へ到着。
リゾート列車に始まりリゾート列車に終わるという、贅沢な臨時列車の行程を無事全うした。
はやぶさ38号 [新青森~東京]
「東京へ、帰ろう!」
19時44分発のはやぶさ38号は新青森を出る東京行きの最終便だ。この列車は盛岡まで律儀に各駅へ停車する。
帰路は夜行バスを利用しようと思っていたのだが、予想以上に疲れてしまったので新幹線を選択。
数年前までだったら「あけぼの」に乗る選択肢もあったが、今はそうもいかない。専ら新幹線に頼るしかないのだ。
行楽客とすっかり腹ペコになった私を乗せて、最終はやぶさ号東京行きは一路東京へ向かった。
・旅の総費用:38920円(秋の乗り放題パス+指定券代+新幹線運賃+三セク運賃+バス運賃)
・乗った乗物の数:鈍行7本+快速3本+バス1本+新幹線2本
・総距離/所要時間:約600km/1泊2日
結構費用(主に新幹線代)がかかってしまったが今回の秋田ローカル鉄道旅は大成功した。
コンセプト的にも良い感じに収まったと思うし、臨時列車づくしだったから楽しかったぞ。
起伏に富む陸羽東西線、由利高原鉄道でのサプライズ、秋田内陸縦貫鉄道の絶品車窓。
小出し気味で全五記事に及ぶ内容になったが、本稿で秋田ローカル鉄道旅を終幕する!