「極寒北国紀行 3日目 (稚内~旭川~岩見沢~札幌)」
[2014/12/12]
最北端の岬に立ち寄った後、私は稚内駅で小休止していた。
これから宗谷本線と函館本線を乗り継いで二日かけて函館へ向かう。
最北端稚内から道南の函館まで行くから、北海道を南北に縦断していくことになる。
宗谷本線 [稚内~旭川]
宗谷本線を全線通しで行く鈍行は1日1本しかない。起点稚内から終点旭川まで乗ると片道6時間もかかる。
現在最も乗車時間が長い鈍行は根室本線の滝川発釧路行きだが(片道約8時間)、今から乗る宗谷本線の鈍行も相当長い乗車時間だ。
それにしても、1日1本の1両の気動車が260kmの道のりを走るっていうギャップが半端ないな。
単行気動車が広大な大陸に立ち向かう様は北海道の特権だと思う。
南稚内を出てしばらくすると右手に雄大な車窓が展開する。
この区間の絶景は短いので、ボーッとしてると見逃してしまうかもしれない。
日本海が間近に現れ、その向こうには利尻富士を拝むことができる。
今日は空が分厚い雲に覆われており、利尻富士は拝むことができなかった。
利尻島は祖父の故郷らしく是非この目で見たかったが、天候には逆らえない。
豊富で稚内から乗ってきた地元客が降りていき、車内は鉄三名となった。
サロベツ原野をひた走り15時14分に幌延へ到着。
次の発車は15時50分である。
発車まで40分もあるので、色々な角度から列車を撮影してみることに。
幌延はかつて羽幌線が接続していた名残か駅構内は広い。
古ぼけた跨線橋がすげーいい味出してる。
長時間停車の後、幌延を定刻通り発車。今のところ遅延はなく道のりは順調に進んでいる。
片道6時間のうち、まだ2時間しか経ってない。宗谷の道のりは長く長く果てしない。
天塩川の絶景をもう一度見たかったが、早くも日が暮れてしまった。
ここから今度は、4時間真っ暗な中を進んでいくことになる。
石北塩原駅
石北塩原で特急待ちのため9分停車。時刻は16時半だが外は既に真っ暗だ。
遅延だらけだった昨日と違って、今日は鹿衝突もなく至極順調な道のりを辿る。
佐久でも行き違いのため5分停車し、対向列車は遅れて来るのかと思いきや、何のことなくやってきた。
今回の旅は意外と運が向いてるかもしれない。
北海道に来ると幸運に見舞われることが多いのは何故なのか。
4時間ずーっと真っ暗だと、さすがに飽きてきてしまう。
スマホで情報収集しようと思ったが、電波が不安定で圏外になったりを繰り返す。
ソフ○バンクは、田舎に行くほど電波が悪くなるらしい。
音威子府で地元客がドッと乗り込んでくる。稚内からようやく3時間経った。
まだ半分だ。マジで長い。ただ、飯田線の全線通し鈍行よりはマシかもしれない。
豊清水で、下り列車が鹿と接触した影響で少し立ち往生する。
「いや~あんた、汽車なんて久しぶりに乗ったべさ!」
「今は何処でも車で行っちゃうから乗る機会があまりないわな………」
生粋の道民は鉄道を未だに「汽車」と呼ぶらしい。
確かにコレは電車じゃないから間違ってはいない。
しかし、21世紀にして「汽車」ってなんかすごい響きだぞ………!
鹿が立ち入るのか、単なる踏切通過なのか、警笛を何度も鳴らしながら列車は進む。
やがて18時半に拠点の名寄に到着。一気に乗客が増え満席となった。
18時36分に名寄を発車。士別で乗客がガラッと入れ替わり、その大半は学生。
観光客も少しだけだが見かける。名寄から先も特急の遅れで数分停車を繰り返す。
………このままだと「赤電」に間に合わないかもしれない。
30分以上遅延が出なければ大丈夫なのだが。
永山で乗客が減った。起点から終点までずっと乗ってきたが、尻は意外と痛くならない。
さすが元特急の座席だ。座面が柔らかい上、少しだけリクライニングできるから快適なのだ。
旭川駅
20時半、列車は定刻から少し遅れて旭川に到着した。
とりあえず次乗る函館本線の最終列車に間に合ったからよかった!
もう次の列車が入ってきそうなので、そのままホーム上で待機することに。
もしかしたら運用を外れているかもしれないが、私の下調べが間違っていなければ、
これから「赤電」が岩見沢行き最終列車としてやってくるはずだ………!
「お客様に乗り場変更のご案内を致します。
20時48分発の岩見沢行きは、本日に限り乗り場が5番線に変更となっております」
旭川到着後、岩見沢行き最終列車のアナウンスが入った。どういうわけか今日に限っては5番線で発着するらしい。
今日中に岩見沢まで行く普通列車は20時48分発が最後だ。
岩見沢以南は本数が多いから問題ないが、まずこれに乗らないと今日中に鈍行で札幌まで行くことができない。
「今日あれ来んじゃねえの、あれ」
「ああ、あの赤いやつか」
どうやら、赤電は地元学生にも親しまれているようだ。
私も昔は常磐線の中電を白いやつって言ってたから、それと感じ方は一緒か。
やがて4つのいかついヘッドライトを照らして、「赤電」こと国鉄711系が入線する!
よかった、赤電はまだ消滅してなかった!
列車は3両編成でドアは二ドアの片開き、座席はほぼ全てボックスシートである。
自分にとっては、これが最初で最後の赤電乗車となる。
道民の足として親しまれた名列車の勇姿をこの眼で見届けよう!
函館本線 [旭川~岩見沢]
国鉄711系は、北海道に初めて導入された「国鉄電車」だ。
急行としても活躍したこの車両は、北海道の厳しい寒さに耐えれるよう徹底的な防寒・耐雪構造が施されている。
1967年にデビューして以来、半世紀に渡り北海道の顔として長らく走ってきた711系だが、車両の老朽化に伴い今年2014年度に引退することとなった。
2ヶ月前にさよなら運転企画が行われた後であり、完全消滅まで風前の灯状態である。
・8時8分発の岩見沢行き
・17時38分発の岩見沢行き
・20時48分発の岩見沢行き
今のところ旭川発の赤電はこの3本だけで、他は全て新型車両で運行されているようだ(2014年12月時点)。
がんじがらめの行程の中、私は消滅寸前の赤電を旅の中になんとか組み入れることに成功。
宗谷本線の全線通し鈍行と、赤電の乗り継ぎ時間がピタリ合致したのは本当にラッキーだった!
20時52分、岩見沢行き最終列車は数分遅れて発車した。
車内は空いておりボックスシートで一人悠々と夕飯にありつく。
半世紀前の古い車両だが、気密性に優れているのか車内はとても静か。
初動こそ遅いが、高速域に入ると安定した走りを見せるあたりは急行列車としての名残だろうか。
「おいこれ懐かしいな。赤い電車。もう今年になくなっちまうんだとさ」
「俺はこれ乗って高校行ってたな。まだ十七んときだよ………」
仕事帰りに乗り込んできたリーマンが、懐かしげに青春時代を語る。
赤電は現在手稲~旭川間で一日数本走っているのみで、今では珍しい存在なんだろう。
岩見沢行き赤電は順調に道のりを進んでいく。外は吹雪で雪が降りしけっている。
明日どうなるか心配だが旅の峠は越えた。あとは函館のSLと北斗星が残っている。
今回の旅は本当にお別れだらけだ。
これほど二度と立ち会えない瞬間が続く鉄旅もそうそうないだろう。
岩見沢駅
岩見沢到着は22時33分。吹雪の中走り続けた赤電はすっかり雪化粧になっていた。
これに乗って札幌まで行きたいところだが、残念ながら赤電はここで役目を終える。
数ヶ月後に完全消滅する赤電の走りは威風堂々としていたぞ。
「さらば赤電。今までお疲れ様でした!」
道民でもないくせして何言ってんだか。(一応札幌生まれだけど)
最終列車の役目を終えた赤電は早々車庫に帰っていく。私はそれを一人で見送った。
函館本線 [岩見沢~札幌]
22時32分発の手稲行きは、ありがたいことに到着が遅れた赤電からの乗客を待ってくれていた。
車両は733系。2012年に導入された新型車両で、大先輩の赤電711系とは45年の開きがある。
車内の自動放送はダンディーな男性によるもの。新型でもドアは寒さ対策のため片開き式である。
23時半、手稲行き鈍行は札幌に到着した。
札幌もブラつきたいところだが、明日は始発出発だから早く休まないと身体がもたない。
すすきのにある宿に向かうためJR駅構内から札幌市営地下鉄の乗り場へ向かおう。
あぁ懐かしい!夏の札幌帰省のときココはよく通ったぞ。
相変わらず初乗り200円の切符を買い、人混みにまぎれて私は懐かしのホームへ降り立った。
札幌市営地下鉄南北線 [さっぽろ~すすきの]
札幌市営地下鉄南北線は、日本初の「ゴムタイヤ式地下鉄」だ。
その歴史は意外と深く札幌オリンピック開催年(1971)まで遡る。日本の地下鉄では4番目の開業となった。
当時の札幌は人口がそこまで多くなく、地下鉄開業に難色を示した大蔵省に対し、「料金を払えば熊でも乗せる」と言い放った市交通局長の逸話は有名である。
札幌の地下鉄はゴムタイヤなので加速が速く、乗り心地も独特。その他、他にない個性が沢山ある。
車両は新幹線並みの巨体で、冷房が付いてないので夏は窓が開け放たれ風鈴がつく。
座席上の荷棚もないし、優先席に対する意識が強いのも特徴だ。
「間もなく、一番ホームに真駒内行きが到着します。ご注意ください」
このアナウンス、懐かしすぎる。ホームドアがついたから以前とちょっと違うな。
接近放送が流れると間もなく真駒内行きが到着し、すぐに発車した。
そういや発車ベルも無くなってるな………アナウンスの後に「ゲーーーッ!」って鳴るはずなんだが。
ああそうか!ホームドアがついたからブザー音必要なくなったのか。
あの独特のブザーの音、私は好きだったんだけどな………!
すすきの
さっぽろから数分足らずで歓楽街すすきのに着く。
夏の帰省時に散々ぶらついたすすきのだが、今見渡すとその町並みは思った以上にケバかった。
すすきのは日本三大歓楽街の一角で、表通りにキャバレーやクラブが沢山立ち並ぶ。
駅から歩いて3分のところに今日の宿(カプセル)はある。
本当はシングル部屋を予約したかったのだが、今日~明日にかけて札幌ドームでジャ○ーズのコンサートが行われている影響で、この日の札幌の宿はどこも全て予約で埋まっていた。
バックパッカーの宿も埋まってたのは正直閉口したぞ。
シングル部屋がないなら男は黙ってカプセル!今夜はたった6時間の滞在である。
明日は早朝から函館本線の始発に乗って、終着駅の函館まで行かなければならない。
ありとあらゆる列車を乗り継いで向かうことになるが、明日は雪がドッサリ降るらしく心配だ。
明日の旅程を全てこなせば、今回の最北端鈍行旅は大成功となる。
無事に函館まで辿り着き、憧れの北斗星に乗って東京へ帰ることが出来るか!?
次回!長距離鈍行・特急・臨時SL・市電・寝台特急を含めた、これまで以上に濃厚な一日が幕を開ける!