山陰本線の旅(前編)

「山陰出雲一人旅 1日目 (京都~福知山~豊岡~城崎温泉~鳥取~米子)」

[2015/9/3]


偉大なるローカル線、山陰本線を制覇するべく、私は夜行バスに乗って京都へやってきた。
山陰本線の概要は前回の記事でざっくり説明したが、運行系統が分断されている以上、数珠繋ぎで列車を乗り継いでいくことになる。
初日は京都から米子まで向かう。途中で観光も挟むから無難な行程だろう。

駅外れのマックでソーセージマフィンを食べた後、
なだれ込む通勤客の隙間を縫って山陰本線の一番列車に乗り込んだ。


山陰本線 [京都~福知山]

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山陰本線の最初を飾る鈍行は、6時37分発の福知山行き一番列車だ。
山陰本線の京都~園部間は“嵯峨野線”という愛称がついていて、西日本アーバンネットワークの一角を成している。
列車は6両編成で、前側2両は福知山まで向かうが後側4両は園部止まり。これはちょっとややこしい。
車内はクロスシートがズラッと並ぶ。
どうやら山陰本線は終点までずっとクロスシートにありつけるらしい。

車内が混み合ってきたところで、福知山行きは定刻通り京都を出発した。
京都を出るとしばらく市街を進む。この区間は電化されていて、線路も真新しい高架になっている。
後に単行気動車が行き交うだけのローカル線になるとは思えない雰囲気である。
通勤時間帯なので車内は満席。ひとまずドア脇でやり過ごすことにしよう。



天気はどんよりとした曇りで、雨も少しだけ降っている。残念な空模様だが明日は晴れるらしい。
高架区間を過ぎて前方に山が近づいてくると嵯峨嵐山へ。
ここから列車は深い山間部へ入っていく。


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嵯峨嵐山を出ると列車はトンネルに入り、ここぞとばかりに速度を上げて疾走。
トンネルとトンネルの間で見えるのは人家一切なしの“保津峡”だ。
保津峡を抜けると再び住宅街へ入っていくが、右手にただっ広い田園が広がっており、
早くもローカル色を滲ませてきた。車内は相変わらず混んでいる。


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朝霧の中を列車はひた走る。八木で乗客がドッと入れ替わった。
山に囲まれた平地を走り、7時20分に運行拠点の園部へ到着。
ここからは前側二両が切り離され、ワンマン列車となって終点の福知山へ向かう。

ワンマン用の自動放送に切り替わると、列車は園部を出発する。



園部から再び山が深くなってきて、桂川とともに山の中へ。
日吉では特急待ちのため長時間停車。そういや線路は何時の間にか単線だ。
総距離680kmの本線とは思えない貧弱ぶりである。


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山間の田園を走って、安栖里で列車待ち合わせのため再び停車する。
しばらくするとベージュ色の国鉄特急が駆け抜けていった。
山間部を抜けて住宅街へ入ると、列車は舞鶴線と接続する綾部に着く。
車内は少しずつ空いてきた。綾部から列車は速度を上げて突っ走る。


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8時38分、列車は福知山に着いた。ここから今度は豊岡行きの鈍行に乗り換える。
福知山は山陰本線の他に福知山線京都丹後鉄道が乗り入れていて、乗り場は広い。

ホームで待つことしばらくして、次乗る豊岡行きが入線した。


山陰本線 [福知山~豊岡]

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8時54分発の豊岡行き鈍行は、再び二両編成のワンマン列車。車両もさっきのやつと同じだ。
対向ホームから先に出ていく特急「きのさき」を尻目に佇む姿が、哀愁の鈍行妙味を掻き立てる。
通勤時間帯を脱したので乗客は疎らだが、それでも座席は八割方埋まっていて地元需要を感じさせる。

列車は福知山を発車すると市街を出て、閑散とした山里を進んでいく。



この区間の車窓は平板で見所は少ない。
牧川と並行して走り、播但線と接続する和田山で数分停車。
養父でまたしても列車待ち合わせで数分停車する。単線で特急も走ってるから過密なのかもしれない。


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素朴な景色をひた走り、定刻通り10時10分に豊岡へ到着。
ここでの乗り換え時間は僅か2分。さっさと次の列車に乗り移る。
対向ホームに停まっていたのは、二両編成の気動車だ。


山陰本線 [豊岡~城崎温泉]

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10時12分発の浜坂行き鈍行は国鉄気動車だった。キハ40。全国でもお馴染みの普及型気動車だ。
この車両は全国至るところで見かけることができ、地区によって塗装が違うが、山陰本線のキハ40はオリジナルのタラコ色で昭和ノスタルジーがびんびんに漂っている。

間髪入れずに乗り換えると浜坂行きはすぐに発車した。
ガラガラとエンジンを唸らせ、大河のような趣の円山川とともに進む。


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この先、山陰本線は観光地が続く。ということでまずは城崎温泉で下車してみた。
城崎温泉は超メジャーな温泉街で、その歴史は1300年と古い。
せっかくなので温泉に入ろうと思ったが、時間的にいっぱいいっぱいで無理そうだったので、駅から20分ほどで行けるロープウェイに乗って温泉街を見下ろしてみることにした。


城崎温泉ロープウェイ [城崎温泉~山上]

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城崎温泉ロープウェイは、ロープウェイなのに中間駅を持つ珍しい路線だ。
所要時間は7分で、山上には展望台があり遠くに日本海も見渡せるという。
今日は昼過ぎから整備点検を行うらしく、午前中のみの運行となるようだ。
京都を遅めに出発してたら間違いなく最終便に間に合わなかっただろう(汗)

往復切符は900円で中間駅の途中下車も可能となっている。切符を買い乗り場へ。
出発時刻になると観光案内が流れ、山頂向けてゆっくりと上り始めた。


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大学生に混じって運ばれること数分、山頂の展望台へやってきた。
標高は231mで、手前に城崎温泉街、奥に日本海が見えた。

「わぁー、思った以上に眺め良いじゃん!」


写真サークルの女子大生がゴツイ一眼でパシャパシャ撮っている。
私が愛用してるのは、ズームや便利機能なしの単焦点コンデジだ。
余計な小細工が好きじゃないし、単発で眼の前の風景を収めてくれればそれで十分さ。

温泉街を眺めまくった後、城崎温泉駅へ帰還。タラコの気動車が待っていた。


山陰本線 [城崎温泉~鳥取]

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城崎温泉から先、山陰本線は遂に非電化となる。
京都からやってくる特急も城崎温泉止まりがほぼ全てを占めるので、ここからは鈍行が主役となるわけだ。
豊岡・城崎温泉~鳥取間は浜坂を境に運行系統が分かれ、本来は浜坂で乗換えなければならない。
しかしこれから乗る城崎温泉発鳥取行きは、この系統の境を無視して鳥取まで行ってくれる貴重な鈍行である。

11時56分発の鳥取行きは、やっぱり先程と同じく二両編成の国鉄気動車キハ40である。
時刻表を見ると、豊岡・城崎温泉から鳥取まで行ってくれる鈍行は一日二本しかない。
当列車は城崎温泉を起点として、約二時間の道のりをかけて終点の鳥取へと向かう。



城崎温泉を出ると間もなくトンネルを潜り、深い山の中へと入っていく。
長い長いトンネルを抜けると田園を走って竹野へ。ここで列車待ち合わせのため3分停車。
エンジンを唸らせながら勾配を延々と上ると県境を越え、右手に日本海がチラつき始めた。


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鈍く光り輝く日本海。
日本海をチラつかせながら国鉄気動車がひた走っていく。
鄙びた港町を抜けて住宅が多くなってくると、松葉ガニで有名な香住へ到着。

断崖の上に建てられた鎧を過ぎると、車内がヨソヨソし始めた。この先、山陰本線の名物があるからだ。


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鎧を過ぎてしばらくしたところで待ち構えていたのは「余部橋梁」だ。
この橋の写真はテツオタじゃなくても何処かで見たことがあるだろう。それほど有名な景勝地だ。
余部橋梁の人気度は尋常じゃなく、鈍行なのに車内で歓声が上がっている。

「素晴らしい!山陰本線は素晴らしぃいいい!」


自分より遥かに突き抜けた、鉄オタのおっさんがめっちゃ興奮してる。キモッ。
列車は徐行して進むので絶景を存分に拝むことが出来るようだ。
余部橋梁を渡り終えると餘部に到着。橋梁の最寄駅であり”鉄”が十名ほど降りていく。
鉄道ファンなら100%下車しそうな場所だが、私は鳥取砂丘の方が興味あるのでスルーした。


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高い所を走ってトンネルを何度も抜けると田園に入り、運行拠点の浜坂へ到着する。
ここでは6分ほど停車するようだ。浜坂市街を出るとトンネルを潜って港町を抜けていく。
福部では時間調整のため3分停車。道のりが平坦になると住宅が増えてきた。

13時54分、列車は終点の鳥取へ到着となった。
今回は砂丘を見に行こうということで、路線バスに乗って鳥取砂丘へ向かおう!


日本交通/日ノ丸自動車 砂丘線 [鳥取駅~鳥取砂丘]

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日本交通と日ノ丸自動車が共同運行している砂丘線は、鳥取駅から鳥取砂丘へ向かう観光バス路線だ。
1日12本出ていて運賃は370円。
休日は砂丘線の他、ループ麒麟獅子バスという観光バスも走っている。

14時10分発の鳥取砂丘行きは、発車すると鳥取市街を抜けて一路砂丘へ向かう。
市街を出ると険しい山あいに入り、坂を上ってトンネルに入る。
トンネルを抜けると左手に砂丘が見えてきて、駅から20分で鳥取砂丘に到着した。


鳥取砂丘

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鳥取砂丘は名前だけは知っていて「実際どうなんだろ??」ってずっと気になってたが、
実際来てみると「ここ日本!?」って疑いたくなるような砂丘が広がっていた。

日本海沿岸に存在するこの砂丘は、日本三大砂丘の一つで観光可能なものとして日本一の広さを誇る。
古来、中国山地のところにあった岩石が風化して砂になり、河川によって海の際まで運ばれたという。
その大量の砂の堆積が海面低下によって陸上へ上がり、砂丘となった。これが鳥取砂丘の大元だ。


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鳥取砂丘は中に入ることが可能だが、足下はずっと砂なので結構足を取られる。
裸足になるのは面倒だったのでスニーカーで砂丘に突入したが、思った以上にしんどい。
“馬の背”と名付けられた砂の丘があって、上ってみると眼下に日本海が広がった。


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さすが砂丘というだけあって、360度見渡しても広大なスケールで迫ってくる。
見渡す限り完全に砂漠!ラクダまでいるし。どんだけだよ鳥取砂丘。

広大な景色を味わった後、折り返しのバスに乗って鳥取駅へ戻った。


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折り返しの砂丘線で鳥取駅へ戻ってきた。駅弁が売っているので何か食べてみることに。
駅弁はあまり食べないので、定番っぽいやつに眼が行った。
私が選んだのは「元祖かに寿し」。鳥取駅弁の中で最も歴史の古い駅弁らしい。
酢飯の上にかにがギッシリのっていて、あっという間に完食してしまった。

鳥取からも山陰本線の旅は果てしなく続くが、快速「とっとりライナー」で今日は締めだ。


山陰本線 (とっとりライナー) [鳥取~米子]

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鳥取から再び山陰本線は幹線の様相を呈してくる。非電化だが特急が走ってるし快速も運行されている。
私がこれから乗るのは、16時03分発の出雲市行き「とっとりライナー」である。

車両は二両編成の気動車キハ126。2001年に導入された西日本の高性能気動車だ。
この車両はほぼ全席ボックスシートとなっており、18キッパー垂涎の仕様となっている。
見かけはコストカットが見え見えだが、シートピッチの広いボックス席にありつけるのは至福のひと時だ。

鳥取~米子間は鈍行だと二時間強かかるのに、この快速だと一時間半ちょっとで行ってしまう。
定刻が来るとエンジンを轟かせて鳥取を発車した。



鳥取隣の湖山で対向待ちで数分停車し、5駅先の青谷でも対向列車待ち。
相変わらず単線なので、快速のくせに列車待ちが多いようだ。


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下北条あたりまで来て夜行出発のせいか眠くなってきてしまう。
しまいには雨も降り出し、景色がぼんやりしてきて何時の間にか眠ってしまった。
この区間、日本海はあまり見えないようだ。住宅と田園の間を行ったり来たりする。


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「米子、到達!!」


17時43分、とっとりライナーは定刻通り米子に着いた。

山陰本線と境線が乗り入れる米子は、特急・快速共に停車する要衝である。
どうせなら鬼太郎列車で有名な境線も乗りつぶそうと思ったが、観光で結構歩き回って疲れていたので、やむなく宿へ向かう。


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宿へ行く前に夕飯にありつこうということで駅前を探索してみるが、駅前は居酒屋しかない。
居酒屋に入る気分ではなかったので、米子駅中の食堂へ入店。
昭和風情を残す「グリル大山」で頂いたのは、隠岐のイカ醤油漬け定食
素朴な味だけど美味しかった。

明日は山陰本線の旅を一旦休止して、木次線のトロッコに乗った後、出雲大社を観光する予定だ。
日中ずっと列車で進んだのに、まだ山陰本線の半分にすら達してないという事実。
「こりゃ三日目キツイだろなー」と不穏なフラグが立ち始めていた。


コメント

  1. 774の人 より:

    ローカル線を新快速にも使われる列車が走る違和感の大きさ。山陰本線は長いですねぇ、飯田線といい勝負するのでは?

  2. Pink16 より:

    774の人様、コメントありがとうございます。

    確かに違和感ありましたねー。京都から豊岡まではずっとJRのステンレス電車でした。
    鈍行はJR車なのに特急が未だ国鉄車(しかも国鉄色!)だったのも意外でしたね。

    飯田線は数年前に全線乗り通しましたが正直しんどかったですね。駅が多いのでひたすら鈍くて長かった……。
    山陰本線もやっぱり果てしなく長い!一日で完乗できるらしいですが相当鬼畜でしょうね(汗)。

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