「秋田ローカル鉄道旅 2日目 (羽後本荘~矢島~羽後本荘)」
[2015/10/17]
朝6時半、自前目覚ましが鳴り響く前に私は起床した。
何時も大体身体が疲れきってるから、目覚ましに叩き起こされしぶしぶ起床するのだが、
今朝は何時もと違って冴えていてすぐに眼が覚めた。
早起きすれば良いことあるぜと信じて、7時過ぎに朝食バイキングで腹ごしらえ。
腹いっぱいに満たした後、私は改めて由利高原鉄道の時刻表を確認した。
由利高原鉄道
由利高原鉄道。略して由利鉄(ゆりてつ)。
羽越本線と接続する羽後本荘から矢島までを結ぶ第三セクター鉄道だ。
正式な路線名称は鳥海山ろく線といい、全長23kmに合わせて12の駅を有する盲腸線である。
かつて国鉄矢島線として健在していたこの路線は元々、羽後本荘から横手を経て太平洋側までを結ぶ計画があった。
その一大計画「陸羽横断鉄道構想」は、当時たびたび起こった天災が重なって夢のままに終わってしまう。
日本海側と内陸からともに線路を延ばして繋げようとしたが、内陸から延ばした路線はすぐに廃止されてしまい、
買収・国有化された日本海側の矢島線だけが、横断鉄道計画の夢残り盲腸線として生き残った呈だ。
盲腸線として存続することになった矢島線だが、旅客需要が伸びず85年になって早々に三セク転換されている。
「由利高原鉄道鳥海山ろく線」として生まれ変わった同路線は、今年2015年で開業30周年を迎えたらしい。
ツイッターやフェイスブック他、ユーチューブの公式アカウントで動画配信までやっている。
こうしたネット情報発信の努力振りもさることながら、由利鉄は特別な列車を毎日走らせているから驚きだ。
その名も「まごころ列車」。
車内におばこと呼ばれる女性アテンダントが乗務し、沿線の案内をしてくれるという。
この列車は一日一往復の運行で、現時点では9時53分発の羽後本荘行きと10時46分発の矢島行きが該当する。
今朝何故か早起きしてしまった私は、何を血迷ったのか、
本来の予定を繰り上げて7時46分発の何の変哲もない鈍行に乗って矢島を目指すことにした。
朝食を食べた後はすぐにチェックアウトし、7時半に羽後本荘駅へ。
「これから出発する列車は団体さんが乗りますんで、乗る列車に注意して下さいね!」
由利鉄の窓口でフリー切符を購入後、改札を通り由利鉄の乗り場へ向かう。
団体さん……?乗る列車……?どういうことだ……!?
由利高原鉄道 [羽後本荘~矢島]
なんじゃこりゃ!?
7時46分発の矢島行きは二両編成の気動車……なのだが、なんだこの萌えキャラは??w
まさか秋田にも“萌えラッピング車”があるとは思わなかったぞ。
由利鉄の全列車は「おばこ号」という愛称を持っていて、列車の種類も多種多様らしく、
数年前からは漫画のラッピング車も始めたという。コレがそれってことか。
以前は「釣りキチ三平」「宇宙戦艦ヤマト」のラッピングを纏っていたというが、
現在は「ゆりてつ~私立百合ケ咲女子高鉄道部~」のラッピングを纏って走っている。
“萌え列車”に乗るのは初めてなので何だか新鮮な気分だ。
列車側面は私立百合ケ咲女子高鉄道部のキャラが華を添える。
撮るのも恥ずかしくなってくるほどの萌え萌えぶりだ。
サンデーGXで松山せいじ氏が連載されていたこの漫画は生粋の鉄道フィーチャー漫画らしい。
「ゆりてつ」ネットの試し読みで読んでみたけど、内容は“鉄道版けいおん”って感じかな??
後に連結された萌えラッピング車に対し、前に連結されているのが黄緑色の「宝くじ号」だ。
日本宝くじ協会が助成金で寄贈したイベント対応車で、列車側面には鳥海山が描かれている。
萌えラッピング車は団体客が貸しきるとのことなので、やむなく黄緑色の宝くじ号に乗り込んだ。
車内はロングシートだが、向かい合わせで木製のテーブルが一直線に並んでいる。
まさにイベント列車用って感じだ。
そしてロングシートにズラッと座っていたのは”アラ還”世代のオバちゃん達であった。
「すいませんー、ここどうぞー!」と一人分席を空けてくれたので、その席に私は座る。
何やらイベントが行われそうな様子だが、その最前列の席に私はいる!間借りしてるような気分だ。
普段は空いてるという同列車は、今日に限っては満席。
前側の一般車にも団体客が乗り込んで大賑わいだ。
アラ還のオバちゃんパワーに飲み込まれながら、由利鉄の鈍行は羽後本荘を出発した。
列車は発車すると羽越本線とともに進み、薬師堂を境に独り立ちする。
間もなくして臨時で同乗するおばこさんによるマイクパフォーマンスが始まった。
おばこさんの紹介から始まり、さらに同乗するゆりてつ社員さんからも挨拶が入る。
開業30周年の機運とともに拍手喝采に包まれると、もれなくパンフレットや飲み物が配られた。
てんやわんやに盛り上がる中、列車は子吉を出ると由利鉄唯一の峠に突入。
若干高度が高くなってきて、左手に展望の良い車窓が広がる。峠を越えると列車は小さな川を渡った。
川を渡ったところでおばこさんから案内が入り、右手に鳥海山が姿を現した。
地元では秋田富士ともいわれる鳥海山は標高二千メートルを越える活火山で、日本百名山の一角である。
鳥海山は天気がいいときだけ見えるとおばこさんは言う。
今日は文句なしの快晴なので神々しい姿を存分に堪能できた。
「気持ちは何時も二十歳!」と豪語するおばこさんが秋田弁で乗客を笑わせているうちに、
列車はあっという間に半分の区間を過ぎた。本当にあっという間だ。
……実は途中下車しようと思っていたのだが、もうすっかり団体のイベントに馴染んでしまっていて、
とてもそんなことできる雰囲気ではない。パンフレット、飲み物、ティッシュに続き、
手作りの乗車記念プレートまで頂いた。笑っちゃうほどの大盤振る舞いだ。
「ここは”特等席”ですのでコレもどうぞ!」「すいませんありがとうございます!」
“最前列の特等席”ということでおばこさんから最後に頂いたのは、乗車記念の硬券であった。
めっちゃ嬉しいわー!私が“隠れ鉄”であることを見抜いてるんだろうね(笑)
のどかな田園を走るうちに、終点はあっという間に近づいてきた。
矢島駅
終点ちょっと手前でトンネルを潜ると、間もなく列車は終点の矢島に到着した。
大昔の鉄道計画通りに建設が進められていたら矢島から先も鉄路が続いていたはずだが、
残念ながら由利鉄の道のりはここまでだ。
到着すると、団体客がゾロゾロと外へ移っていく。
駅入口には観光地へ向かうと思われるツアーバスが待機していた。
矢島駅周辺はこれといった名物がないらしい。滞在時間がそこまであるわけでもないので、
今回は駅周りを適当にブラブラ散策してみることにしよう。
矢島の駅舎は真新しいつくりだが茶色い木造造りで趣が漂う。駅構内には売店や休憩スペースもある。
団体ツアーバスが発っていくと辺りはがらんどうとなり、“鉄”数人が取り残された。
駅前から裏手に出て北上するとブチ当たったのが国道108号だ。
由利本荘~石巻を結ぶこの道を南へ辿っていけば、実は昨日通った陸羽東線の鳴子温泉に行き着くのである。
矢島の町並みをバックに相変わらず聳えているのが、雄大な鳥海山だ。
鳥海山は象潟を形成したルーツでもあり、紀元前に起きた土砂流出によって象潟の島々が形成されたのだという。
象潟に存在した「潟」をつくったのはあの鳥海山だった、というわけだ。
国道108号から鳥海山を眺めた後、私は缶珈琲を飲みながら矢島駅へ戻った。
しばらくすると羽後本荘行きの改札が始まる。
復路は念願の「まごころ列車」だ。
由利高原鉄道 (まごころ列車) [矢島~羽後本荘]
9時53分発の羽後本荘行きは、一日一往復のみ運行の「まごころ列車」である。
先程のサプライズ団体列車とは関係なく、9時53分発の羽後本荘行きはまごころ列車として毎日運行されるらしい。
単行の新型気動車だが、ささやかに専用のヘッドマークが付いているのがいい。
そして、ヘッドマークに華を添えるのは安定の萌えキャラである。
ヘッドマークの女性キャラは「やしまこころ」といい、一応公式のプロフィールでは、
由利高原鉄道の列車アテンダントという設定になっている。ヘーソウナンデスカー(汗)
先ほど乗った宝くじ号はイベント特化のロングシートだったが、これから乗る気動車はクロスシートになっている。
各座席にテーブルが設けられていて豪華!JRのピンク電車とは天と地の差である。
定刻が来ると、まごころ列車は僅かな観光客と”鉄”を乗せて発車した。
専属のおばこさんが、パンフレットではわからない地元のウンチクを案内していく。
しばらくすると、往路で貰った乗車記念プレートを再び頂いた。
こんなサービス列車を毎日運行する由利鉄には恐れ入る。
列車は矢島を出ると子吉川と平行して進み、エンジンを唸らせながらのんびり走っていく。
唯一の交換駅、前郷では全国的にも珍しいタブレット交換が行われる。
その模様を撮影しようと”鉄”が先頭部に集うが、交換はほんの一瞬であった。
近くの幼稚園児に見送りされながら前郷を出るとただっ広い田園地帯をひた走る。
すると田園の中にポツンとあるのが、由利鉄唯一の秘境駅として知られる曲沢だ。
おばこさんによれば「たまにここで降りていくマニアがいらっしゃる」のだという。
……すいません私、行きの鈍行であそこに降りようとしてましたわ(苦笑)
鮎川を出るとちょっとした峠に差し掛かり、右手に眺望の良い車窓が広がる。
由利鉄唯一の峠を越えると、列車は子吉へ。駅舎内に郵便局が併設されている珍駅だ。
薬師堂を過ぎると由利鉄は羽越本線と合流した。ここまで来れば羽後本荘は目と鼻の先だ。
羽後本荘駅
10時34分、まごころ列車は終点の羽後本荘に到着する。由利高原鉄道の往復旅もこれで終わりだ。
おばこさんにお礼を述べた後、私は羽越本線の乗り場へ移動し、間もなくやってくる10時41分発の秋田行きを待った。
由利高原鉄道は前から気になっていた路線だが、行きの”サプライズ”もあって楽しかったぞ。
「ここはただの三セクじゃない!」と思わせてくれる価値と施策があちこちに見られたし、
駅員さんやアテンダントさんの“頑張ってる感”が素晴らしかった。
鉄道横断計画の生き残りとして頑張っている由利鉄に、皆さんも訪れてみては如何だろうか。
次回!秋田から奥羽本線と羽後交通の路線バスに乗って、秋田内陸縦貫鉄道の起点角館を目指す!