只見線を日帰りで行く (前編)

「只見線日帰り強行旅 1/2 (大宮~高崎~水上~小出~只見)」

[2016/4/22]


只見線。言わずと知れた、東日本ローカル線の王者である。
乗り鉄問わず旅好きなら一度は乗ってみたい路線だが、東京からだとちょっと遠いのがネックだ。
列車の本数も限りなく少ないため、旅程を立てるのが難しい。行くんだとしてもせめて一泊二日だろうか……。

「寧ろ日帰りでも行けるのでは??」一度そう考えてしまうと、また馬鹿やりたくなってきた。
そもそも日帰りで行くっていう発想がオカシイが、試しに東京から時刻表を追ってみる。

「あっ、コレ行けるわ」(;´∀`)

日帰りで、しかも鈍行で行ける事実が判明した時点で”やるしかないフラグ”が立った!


計画~導入


東京から只見線を日帰りで乗りに行く場合、ぶっちゃけ条件的には結構容易だった。
しかし、それは新幹線を利用した場合の話。東京から鈍行だけで行くのはなかなか無謀である。
時刻表を睨みながら葛藤し、今回、私は大宮を出発点として”右回り”で只見線に乗るルートを考えた。
「只見線 日帰り」とググると、このルートの旅行記が結構出てくる。だってコレ以外思いつかないもん(笑)

「6時台大宮出発→高崎線→上越線→只見線→磐越西線→東北本線→23時台大宮到着」

大宮からまず高崎線で高崎へ向かい、上越線を乗り継いで国境を越え、只見線の起点小出へ行く。
小出からはお目当ての只見線を完乗し、会津若松で間髪入れずに磐越西線に乗って郡山へ。
郡山からは東北本線をひたすら南下して大宮へ戻り、終電寸前の時間帯に帰宅する。
結果的に、総所要時間17時間におよぶ鬼畜行程が完成した。

始発直後で行って終電寸前で帰る。途中で列車が遅れたら行程は即破綻。かなりキツイ旅程だ。
早朝5時、武蔵野線に乗って千葉を出た。南浦和で京浜東北に乗り換え、大宮へ。
鬼畜の日帰り旅が今始まる。


高崎線 [大宮~高崎]

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旅の出発地は巨大ターミナル大宮!今日の23時台に、私はここに帰ってくる予定である。
大宮からまず高崎線に乗って高崎へ向かう。6時39分発の高崎行き鈍行だ。
平日と休日で時刻が若干違う列車もあるようだが、どちらにしても6時台なら問題ない。
似通った車両の宇都宮線に乗ってしまうと、その場で即刻試合しゅーりょーなので注意されたし!

既に通勤ラッシュに突入しており、普通車は混雑することがわかってたのでグリーン車に乗り込んだ。
早朝、朝飯を食べる時間が無かったので、貸しきり状態の車内で朝飯を済ませる。


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高崎線の車窓はつまらないといわれるが、意外とそんなことはない。
グンマーが近づくごとに遠くに山々が見えてきて、旅気分を盛り立ててくれるよ。
4月下旬なのですっかり春景色。普通車は満杯だがグリーン車はガラガラである。

旅行のときだけはグリーン車は使える存在。18切符でも利用できるってのがミソ。



太平洋側は晴れているが、日本海側は雨が降っているようだ。予報だと、今日はかなり気紛れな天気らしい。
スマホのアプリで各地のリアルタイム天気を調べてみると、晴れてるところあれば曇ってるところもある。
只見線だけは絶対天気の良い日に行こうと考えてたから、どうにか晴れてほしいと願う。

昼過ぎまでに雨雲が去ってくれればいいのだが……既に無理臭が漂ってるぞ。
関東平野をひた走り、烏川を渡って、上信電鉄の電車が見えてくれば間もなく高崎だ。


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8時過ぎに高崎へ到着。千葉県民は高崎線一択だが、西東京の人なら八高線で高崎に来るのもいいかも。
八高線の乗り場(0番線)を見たら、見たことない色の気動車が停まっていた。
何時もの緑のやつじゃなくて、白地に赤。リバイバルかな??

高崎からは上越線だ。ひとまず水上行きの鈍行に乗って水上を目指そう。


上越線 [高崎~水上]

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8時24分発の水上行き鈍行は国鉄電車だ。8時24分発より後の列車だと、即刻旅程破綻なので注意したい。
移り変わりが激しい関東において、高崎近くの路線では未だにこんな古い電車が走っている。
東海道本線で昔走っていた湘南電車と色は同じ。もちろん、座席はボックスシート主体だ。
3両編成で車内は出発時点でガラガラ。ボックスシートに悠々と居座る。

列車は定刻通り高崎を出た。新前橋でちょっとだけ乗客が入れ替わる。
何のことなく平野を快走し渋川へ。地元客がドッと降りて、さらにガラガラに。



渋川から列車は平野を脱して、山の中を利根川と交差しながら進んでいく。
絶景区間を過ぎ、沼田で既に貸しきり状態。
車内は私以外に一人いるだけとなった。


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こっちの天気は快晴に近いが、国境の山脈の向こうは分厚い雲で覆われている。
今から向かう只見線の起点は、あの険しい山々の向こうにある。

見るからに怪しい空模様に、ちょっとためらってしまう↓



「今ならまだ引き返せる……!」雨の中、わざわざ日帰りで行ったってしょうがないだろうと。
高崎まで引き返し、未乗の上毛/上信電鉄を攻略しようとも考えた。
しかし、ここまで来たんなら行くしかないだろう。

午後以降唯一「只見町晴れ」の予報を出す、民間企業ウェザーニュースに全てを託す。
気象庁に対向して我が道を行ってる感が好きです。ブラザー俺は信じてるぜ。


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不安な心境の中、水上に定刻通り到着。列車を降りると天気雨がパラついていた。
風が少し強く、山の方からヒューヒューと不吉な風が吹いてくる。
この先の天候は「神のみぞ知る」ということか。

上越国境を越える列車は少ない。6時台に大宮を出発したのも、全ては国境越えの列車に間に合わせるためだ。
跨線橋を渡って向かいのホームへ。真新しい新型電車が停まっている。


上越線 [水上~小出]

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水上から先、国境を越える上越線の定期列車は一日五本しかない。
国境間の交流が薄く、利用者が少ないためである。
この区間、一ヶ月前までは国鉄電車だったのに、何の前触れもなく新型車に代わったようだ。
列車の編成は以前と変わりないが、座席はロングシートとボックスシートが半々ずつになっている。

車内の雰囲気は東京の通勤電車と全く変わらない。真っ白い化粧版に見慣れた座席、そして黒いつり革。
ボックスシートのピッチは国鉄車よりも広い。旅情は薄れそうだが、快適性は新型の方が上か。
9時47分、ガラガラの状態で長岡行き鈍行は出発する。


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列車は水上を出ると谷底を縫うように進んで、間もなく国境越えの新清水トンネルへ突入する。
トンネル手前には、どう見ても廃墟にしか見えない観光ホテルが現れる。
実際、数年前に廃業したそうだ。

今の時代、大型ホテルの経営は厳しいのか……!怪しい空模様の中、列車は長い暗闇に入った。


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JRの新型電車は不協和音を伴った独特の音を発していて、トンネルの中だとちょっと不気味だ。
上越国境を抜けると天候がガラッと変わるが、果たして今回はどうか??

祈るしかない。こればかりは、お天道様に祈るしかない。



轟音立てて暗闇を疾走し、列車は長大トンネルを出る。



国境の長いトンネルを抜けると絶望しかなかった。


新清水トンネルを抜けた先で待っていたのは、鉛色の空と霧深い山景色。
予想はしていたが、「まあそりゃそうだろなー」と予感が予感通り的中したw
ただ、これからどうなるかは全くわからない。各地の天気がマチマチすぎるのだ。

周りの地域は晴れてるらしいから、取り敢えず、今回は可能性一つに賭けてみよう。


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10分前の景色が嘘のよう……!って、3ヶ月前の北上旅行記でも全く同じクダリをやったよな(苦笑)
見渡す限り薄暗く、霧深いが、これはこれでいい感じ。

毎日こうだと欝になりそうだが、陰影深い空模様が雰囲気を駆り立てる。
淡々と走り続け、越後湯沢に着くと一気に乗客が増えた。ほぼ全てが高齢の行楽客である。
ロングシートが増えた新型車に違和感を感じるようで、しぶしぶロングシートに座る団体客を見かけた。


小出駅

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11時10分、列車は定刻通り小出に着く。これで、とりあえず只見線の列車には間に合う。
一日のうちに只見線を全線乗り継ぐパターンは極めて限られていて、
小出側から出発する場合、今年度のダイヤだと7時58分発と13時11分発の列車しか術がない。
この二本を逃すと、終点の会津若松まで乗り通すことが不可能となってしまうのだ。

只見線の列車出発までおよそ二時間ある。せっかくなので、ちょっと辺りを散策してみようか。
小出駅は中心街から離れてるようで、駅前はコレといったものが無い模様。



駅を出て左の道を抜けると小出橋という橋が架かっていて、橋を渡った先にここ一帯の中心街がある。
小出駅のすぐ横を流れる川は魚野川という。信濃川の支流で列記とした一級河川である。

橋の上で景色を眺めていると容赦なく雨が降ってきたので、橋を渡って南方にあるコンビニで昼飯を調達し、
駅に戻って待合室で昼食休憩。「長野も新潟も福島も晴れてるのに何故ここだけ雨なのか!?」と、
理不尽にも思える天候を悔やみつつ、弁当とおにぎりを腹の中に掻き込んだ。


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二路線が乗り入れてるとはいえ、典型的な田舎の駅って感じだ。それでも改札に係員がちゃんといる。
昼飯を食べ列車を待つ傍らで、高齢の地元民が訛り一点張りで話してるのが聞こえる。
どう耳を立てても何を言ってるのか全くわからない。ここは異国なのか??

しばらくすると気動車の入ってくる音が聞こえたので、改札を通って只見線の乗り場へ向かう。
待ちに待った只見線初乗車。果たして、どんな道のりが待ってるのか……!


只見線 [小出~只見]

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奥会津の秘境路線、只見線。本州最北の五能線と肩を並べる、東日本の絶景ローカル線だ。
その人気ぶりは観光雑誌にも載るほどで、特に18切符シーズンは混雑するという。
只見線は元々二つの盲腸線を繋げて一本の路線にした経緯があり、全通は1971年と歴史は浅い。
全線に渡り走るのは鈍行のみで、本数も全国屈指の少なさ。正に横綱級のローカル線である。

2011年の豪雨被害で、只見線は途中区間(只見~会津川口間)が長らく不通状態となっている。
不通区間は代行バスに乗って進む必要があるのだが、バスもまた本数が少ない。
乗り継ぎ時間が短く不安だが、取り敢えず只見行きの列車に乗って先を進もう。

13時11分発の只見行きは二両編成の国鉄気動車で、ワンマンでも事足りるのに車掌が普通にいる。
いまどき珍しい旧態然とした鉄道模様だ。車内はほぼ全てボックスシートである。
定刻が来るとエンジンをガラガラ唸らせて、只見行きは出発した。


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小出からはしばらく素朴な景色が続く。出発してすぐ川を渡り、典型的なローカル風景の中を行く。
周りに聳えるのは山ばかりで、分厚い雲が被っていて全容を把握できない。
息苦しい空模様だが、秘境へ突入するにはお誂えの天気だ。

列車の速度は超絶遅い。多分、ギア3段で全速気味に漕ぐママチャリのスピードよりも遅い。
“THE 鈍行”と言わんばかりの鈍足で、勾配を上りながら山奥へ入っていく。



この区間、列車は破間川と何度も交差しながら進む。両手の山々は既に目前に迫っている。
車内はガラガラで、ほんの僅かな地元客が数駅間乗っては降りるだけ。
山間の僅かな平地を辿って走ってるのがわかる。


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右手に破間川が真っ直ぐ並行し始めると、列車は間もなく拠点駅の大白川へ到着。
駅のすぐ横は川が流れている。 半世紀前まで只見線はここが終着駅だったという。



大白川から先で待ち構えているのは、新潟~福島間に聳える峠「六十里越」だ。
峠越えとはいえ、只見線は長大トンネルで抜けるようだ。
隣駅まで20kmあり、所要時間は30分!

長ーい長ーい峠越えだぁー。



大白川を出ると人家が僅かに見えるが、それも本当に最初だけ。
あっという間に、人家一切無しの秘境の中へ。鬱蒼とした谷底を川とともに進む。
途中、川を渡るところで、自然に還りつつある廃橋が見えた。アレはなんなんだろうか??

上り勾配をひたすら上っていくと、列車は全長6359mの六十里越トンネルへ入る。
このトンネルを抜ければ福島の地へ出るはずだ。


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10分以上かけて二本の長いトンネルを抜けると、山と山の間から僅かに青空が見え始めた。
少しずつではあるが雲が引いてきたらしい。絶望フラグは緩慢に覆りつつある。
ウェザーニュースやるじゃないか!ブラザー俺は信じて(ry

ダム湖の脇を走ると列車は高度を下げて、素朴な街中へ入っていく。
豪雪の街、只見だ。


只見駅

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14時28分、ガラガラの状態で列車は終点只見に到着する。降りると、辺りは静寂に包まれていた。
線路が延びているが……ここから先しばらくのところで橋がまるごと流されてしまったらしく、
現状、列車で先に進むことは出来ない。代行バスしか進む術はない。
バスの乗り継ぎ時間は僅か4分。列車画像を撮った後はすぐ駅舎の方へ移動する。

たった四人の乗客が列車を降り立ち、淡々と乗り場を離れていく。
只見止まりの人が二人で、先へ行く人が私含めて二人。なんて小規模な人間模様なんだ!

「バスはこちらですよー!」
駅員さんに声をかけられたので、導かれるまま、私は代行バスに乗り込んだ。(→後編へ続く)


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